CRAFTSMAN STORY

藤井 秀幸 航空宇宙部 岐阜エアログループ / 田中 省吾 航空宇宙部 部長補佐 岐阜エアログループリーダー / 奥村 浩樹 合金製造部 生産技術グループ

耐熱合金加工用超硬ソリッドドリル「DSAシリーズ」

耐熱合金加工において優れた穴品位と長寿命を両立

2019年9月に発売されたDSAシリーズは、航空機エンジンなど耐熱合金の加工用ドリルとして開発された。耐熱合金加工 では切削熱が上がりやすく、加工硬化が起こりやすい。そのため加工工具には加工精度はもちろんのこと、工具自体の耐 久性も求められる。この両立を図るのが難しい課題に挑んだ若い開発者たちは、ひたすら理想を追求した。そして約3年、妥協することなくフィールドテストを繰り返した結果が、画期的な新製品として実を結んだ。

卓越した3つの技術と それを支える超硬材種

―そもそもなぜDSAシリーズは開発されたのでしょうか

田中  航空機市場は、コロナ禍以前のデータによると、今後20年間に4万機以上の新造が予測されています。完成機1機あたりにエンジンが最低2基必要として、少なくとも8万基以上のエンジンが製造されることになります。となると、当然その加工のための工具が必要になります。当社の汎用工具にはWSTARドリルがあり、これまで派生形として被削材ごと(M、K、N、H種)に専用のドリルを整備して拡販してきましたが、耐熱合金加工用(S種)のラインアップが不足していました。したがって、DSAシリーズを開発すること、そして、この巨大なニーズに対応することが数年前から当社にとって重要課題となっていました。

藤井  そこで2016年10月、航空宇宙部が立ち上げられると同時に配属された私が、DSAシリーズすなわち耐熱合金加工用超硬ソリッドドリル新製品の開発を担当することになりました。

―耐熱加工工具に求められる条件は何でしょうか

藤井  航空機部品には絶対の信頼性が求められる上に、加工材料そのものが高価です。そのため、まず加工精度が良いことが必要条件となります。同時に加工の不具合により材料を無駄にすることも許されません。加えて超硬合金製の工具自体も高価ですから、コストを抑えるためにお客様サイドで再研磨して使用されるケースが想定されるので、研磨しやすい形状も求められます。

奥村  材質については、硬さや靭性、折れにくさなどを必要条件として考慮していきました。超硬合金はタングステンカーバイドとコバルトの配合バランスにより特性値が大きく変わります。試行錯誤を繰り返した結果、靭性を維持しつつ硬度を上げて耐摩耗性を高めた新PVDコーテッド超硬材種「DP9020」を開発しました。

―セールスポイントの3つの特長について教えてください

藤井  クーラント、ホーニング、マージンのそれぞれに特長があります。耐熱合金加工においては、クーラント吐出量が潤滑性と冷却性を大きく左右します。穴形状は実績の裏付けがある従来と同じ三角タイプながら、ドリル剛性を低下させない範囲で吐出量を増やしました。切れ味の良さと耐久性に関わるホーニングについては、安定した切りくず生成とチッピング抑制を両立する形状を探り当てまし た。マージンについては幅と刃型について検討を重ねた結果、接触面積を可能な限り小さくすることで切削熱と加工硬化を抑えました。

田中  耐熱合金加工ではクーラントが極めて重要なので、開発プロセスではまずクーラント穴の仕様を決めた後、刃型、ホーニング、マージンの最適化を図りました。流体解析や剛性解析などのシミュレーションに加えて、高速度カメラを使って切りくずの生成を観察しながら形状開発を進めました。

徹底したフィールドテストで 最適解を突き止める

―開発プロセスの中でも特に注力したポイントはどこだったのでしょうか

藤井  工具の長寿命化を左右するホーニングについては、過去の開発事例を参照しながら時間をかけてベストな形状を追求しました。その際、仮説と検証のサイクルを繰り返し行いました。工具の突発的な欠損は、やはり実際に加工してみないと判断できませんから。

奥村  素材についても同様で、テストピースでの測定値を吟味した上で、実際にドリルをつくって切削試験を繰り返しています。テストピース用の試作段階の材料と、実際にドリルをつくるときの材料ではその大きさが変わってきます。つくる大きさの違いによる品質の変化は、後にテスト工程と量産工程での製造条件の違いにも連なる部分であり、素材開発において最も注意しなければならないプロセスです。

―開発の経緯はどのようなものだったのでしょうか

田中  2016年10月の航空宇宙部立ち上げ と同時期に本開発はスタートしました。それから約2年で設計、試作、所内評価までの基礎開発を終え、その後は量産化確認と併行してフィールドテストを徹底しました。結果的に通常の開発期間の倍ほど時間がかかりました。

藤井  発売までに時間はかかりましたが、その間もお客様に営業部門から積極的にPRしたことでさまざまな加工事例を知る機会がありました。実際にお客様で工具を使用される環境は所内試験で扱うようなブロック材の加工ではなく複雑な形状をしているため、より困難な加工環境で工具を使用することになります。所内試験では結果が出ていてもお客様の使用環境で性能が出なければ意味がありませんので、製品の真の性能を知ることができた意味でもお客様にテストしていただいた結果が貴重なデータとなりました。

奥村  材料については、製品化が見えてきた段階から後は、安定生産が課題となりました。試作段階では合格点を出せていても、安定して製品化できないと意味がありません。製造工程の安定化は確保したものの、製品の上市後にはお客様から寄せられる要望に応えていく必要があり、改善の余地はいくらでもあると考えています。

―お客様へのメッセージをお願いします

田中  航空機は多くの人の命を預かるわけですから、その部品には絶対の安全性と信頼性が求められます。なかでも肝となるエンジン部品の加工において、安心して使える工具としてフィールドテストで認められたことは、我々にとって大きな自信となりました。本製品はすでに全世界に向けた製品供給体制(再研磨・再コート体制)も整っているため、お客様も安心して本工具をお使いいただけると思います。特殊対応も積極的に致します。お客様のニーズに応じて丁寧かつ迅速に対応させていただきますのでご要望があれば何なりとお申し付けください。また、今後は重電産業等への用途展開も進めていきます。

藤井  実際に現場でどんどん使われるようになると、使用条件ごとに異なる性能評価がお客様から寄せられてくるでしょう。そこで出てくる多様な要望に迅速に対応していくのが今後の課題であり、カスタマーニーズに対して的確かつスピーディに対応していける体制を整えていきます。

奥村  新製品の発売開始は、我々にとってゴールではなくあくまでもスタートです。お客様サイドで実際に使用された際に出てくる、さまざまな要望に的確に応えていくのが、これからの私たちの課題です。どんな些細なことでも構わないので、何か意見があればぜひ遠慮なくお聞かせください。

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