TECHNOLOGY ARCHIVE

進化し続ける超硬合金素材の技術変遷。

超硬の本質を追求し続けてきた技術革新の歴史

 超硬工具が普及し始めた1989年、三菱マテリアルは現在でも多様なメーカーの工具で用いられるソリッドエンドミル向け超硬合金素材「TF15」を発売する。その後、極小径ミニチュアドリルなど、工具そのものの極小化に応えるため、素材そのものから数々の技術革新を重ねてきた。今回は、ソリッド工具用超微粒超硬合金の歴史を追った。

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超硬素材の製造工程

 超硬合金は、炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)との合金です。材料の主体はWCで、Coは接着剤の役割をしており、一般的に、WCの粒子が小さいほど硬さが増し、Co量が多いほど硬さの程度は低くなります。超硬合金は硬いが脆い材料のため、使う用途によって硬さと粘り強さのバランスを考えた材料設計が重要になります。超硬合金素材の製造は、タングステン鉱石の再生から始まり、炭化、プレス、焼結などの過程を経て、完成します。三菱マテリアルでは、超硬素材の素原料の材料設計、製造、品質管理までを一貫して行うことで、常に安定した性能を持った素材提供を可能にしています。さらには、材料設計の意図を素原料にまで反映させることができるため、開発の自由度が広がり、市場をけん引する新たな製品開発を実現しています。

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Part 1 1989~

靭性に優れたオールラウンドプレーヤー「TF15」の誕生

 1980年代前半、ソリッドエンドミルはまだハイス素材が主流の時代でした。当時はまだ超硬エンドミルの黎明期であり、そのシェアは国内総生産量70万本/月のうちわずか5%ほど。その頃用いられていたのが、三菱マテリアル最初の微粒超硬「UF20/UF30」でした。その性能は、ハイスの感覚で使われても「折れない」ための選択として、今からは考えられないほどの高Co合金が用いられ、硬さとしては低いものでした。やがて超硬エンドミルが本格的に普及し始めると、耐摩耗性が不足してくるのは当然の帰結であり、各超硬素材メーカーは新たな微粒系超硬合金の開発にしのぎを削り始めます。そして、1980年代末頃には、各社のエンドミル素材の基本構成がほぼ固まっていきます。当社は、幅広い被削材に対応できる汎用性を求め、硬さよりも刃先靭性を確保できる材料設計を選択。さらに、グループ会社である日本新金属社と共同開発した超微粒WC粉末を採用することで、1989年に硬さと靭性の絶妙なバランスを実現した強靱超硬合金「TF15」の発売に漕ぎ着けます。

 「TF15」は三菱マテリアルの製品だけでなく、超硬エンドミルそのものの普及と市場拡大のため、各エンドミル専業メーカーへの素材外販も開始します。すると、発売と同時に国内専業メーカーに瞬く間に浸透。以来四半世紀、「TF15」は今やエンドミルのみならず、ソリッドドリルWSTARシリーズ、ミラクルコーティングを施した汎用インサートVP15TFの母材として幅広く展開され、当社の超硬事業を支える主力材種に成長していきました。また、現在の世の中の超硬エンドミル素材は、世界的に見ても「TF15」を模した素材が主流となっています。この事実は、「TF15」の材料設計がいかに優れていたかを証明しているのではないでしょうか。これは、材料設計だけでなく品質の高さ、すなわち性能のバラツキの少ない素材を供給できる製造技術の高さを、お客様に評価いただいている証しだと自負しています。

Part 2 1989~

飛躍的に強度を高めた超微粒超硬のスタンダード「MF10」

 「TF15」とほぼ同時に発売されたのが「MF10」でした。ターゲットにしていたのは、市場拡大の進んでいたプリント基板穴あけ用のミニチュアドリルです。エンドミルとは異なり、超硬合金の剛性の高さと硬さを活かしたアプリケーションです。高価な基板の穴あけには、「折れないこと」が大前提となりますが、それに加え、穴が「曲がらないこと」が要求されます。当時、当社の素材は一般径が「HTi10」、小径は「UF20」でしたが、基板の高集積化に伴い、「HTi10」では強度不足、「UF20」では剛性不足が指摘され、高集積化に耐えられる新材種の開発が求められました。そんな中たどり着いたのは、超硬合金の原点に立ち返って「欠陥を極小化する」ことでした。脆性材料である超硬合金の強度は、ごくわずかに残る内部欠陥に左右されます。超硬合金は粉末冶金法で製造されるため、どんなに注意深く製造しても、ミクロンオーダーのマイクロポアがどうしても残存してしまいます。これを改善するためには、焼結技術を大幅に進化させる必要がありました。また、仮にそのような欠陥を取り除いたとしても、組織に不均一な部分があると強度のバラツキを招いてしまいます。そこで、素原料であるWC粉末の改良に取り組み、日本新金属社と共同で極めて粒度分布の狭い超微粒WC粉末を開発。同時に、焼結技術をさらに進化させることで、マイクロポアを極限まで減らすことに成功したのです。その結果、剛性と強度の両立を実現した「MF10」は、小径のミニチュアドリルにおいて確固たる地位を築き上げました。さらに、エンドミルの素材としても、「TF15」の弱点であった高硬度鋼の加工においても抜群の性能を発揮したのです。以来、高硬度用は「MF10」、汎用は「TF15」として、現在も広く愛され続ける超硬素材が誕生したのです。

Part 3 1999~

ミニチュアドリル一般径のグローバルスタンダード「SF10」

 1990年代後半になると、電子機器が広範に普及することで、「MF10」でターゲットとしていたサイズよりも大きい、ミニチュアドリル一般径の需要が拡大していきます。同時に、基板の高硬度化も進んでおり、それまで対応していた「HTi10」の改良が求められていました。「SF10」の開発では、ミニチュアドリル用素材のトレンドが超超微粒に向かう中あえて粗めの材料設計を選択しました。基板のフィラーによるマイクロチッピングを抑制するとともに、「MF10」で培った製造技術により安定した強度を実現しました。ボリュームゾーンである一般径に対応する「SF10」は、自社のみならず多くのミニチュアドリルメーカーに採用され、現在も主力材種として使い続けられています。


HISTORY

超硬素材の歴史を遡る

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Part 4 2000~

三菱神戸ツールズとの協業で生まれた超高硬度材種「インパクトミラクル」

 2000年、神戸製鋼の工具部門(現・明石製作所)が三菱の傘下に加わります。三菱神戸ツールズの得意分野は高硬度鋼加工用のエンドミルであり、その強みをさらに活かすため、三菱素材技術とのシナジーを活かし、エンドミル刷新のプロジェクトが開始されます。当時の神戸製鋼にて使用していた素材は「KRZX8」というもので、当社の「MF10」相当の超微粒超硬でした。目標であるHRC60クラスのダイス鋼へ対応するためには母材の硬さを高める必要がありましたが、エンドミル用途のため、刃先靭性をいかに確保するかが課題になりました。理想の硬さを得るためには、超硬の粒度を従来の1/2程度まで微粒化しなければなりませんでした。そのためには、原料であるWC粉末自体のサイズを従来の1/2以下にすること以外なく、さらには粒度分布の狭い均粒な粉末が不可欠でした。当時、この要求を満たすWC粉末は市場に存在しなかったため、日本新金属社と共同で平均粒径が0.1μmクラスの超超微粒WC粉末を開発し、「MF10」を大幅に超える硬さを有しながら、「MF10」同等の靭性を併せ持つ新材種を実現することに成功しました。2005年発売の当社インパクトミラクルシリーズの母材に搭載されることとなったのです。

Part 5 2012~

次世代の超超微粒超硬の開発

 現在のミニチュアドリルは二極化しています。ボリュームゾーンの一般径はコモディティ化する一方、小径は付加価値を高めるため極小径化が進み、ドリル径がØ0.15mm以下の時代に突入しました。極小径ドリルは芯の部分がわずか数十μm。これは、「MF10」で換算すると、WC粒子を100個も並べられない世界です。ここで課題になるのが量産技術です。WCの粒度が0.1μmクラスになると製造難易度が格段に高まります。粉体は微粒になるほど凝集しやすくなるとともに反応性も高くなるため、合金の均質性を阻害するのです。さらに、ミニチュアドリル用素材を取り巻く外部環境の変化がありました。WCの原料価格の高騰から、ミニチュアドリルは2000年代初頭から、超硬無垢材のソリッドドリルからスチールシャンク+超硬刃のコンポジットドリルに推移し始め、2000年代後半にはØ2mmシャンクを除きほぼ100%がコンポジットドリルとなりました。これにより、素材は小径長尺化することになり、これが製造難易度をさらに押し上げることになったのです。結果的に混合技術、押し出し技術、焼結技術、全ての工程で大幅な技術改善を行い、2012年からようやく一部のユーザーに新材種が採用され始めました。市場への本格的な浸透はこれからであり、今後の拡販が期待されます。


超硬素材開発の四半世紀を振り返って

 これまでの歩みを振り返ってみると、「素原料から材料設計ができること」こそ我々の強みであると再認識させられます。各材種の発売にはことごとく素原料開発が伴い、材料設計の意図を素原料にまで反映させ生み出してきた歩みなのです。また、三菱の超硬素材を使い続けていただいている最大の理由は、「安定品質」にあると信じています。高い信頼性を守り続けるためには、材料設計だけでなく、素原料の製造にまで遡った品質管理と高い水準の作りこみが求められます。素材は全ての基礎であり一切のごまかしがききません。しかし、それが超硬素材開発の醍醐味であり、面白さでもあります。これからも真摯に技術と向き合い、積み上げてきた強みを活かしながら、超硬の本質を追究していきたいと思います。

(中)開発本部 材料コーティング開発センター 材料開発グループリーダー 博士(工学) 岡田 一樹
(左)MMCリョウテック㈱ 素材事業部 つくば工場長 市川 洋
(右)同 素材事業部 技術開発係 坂本 信介(生産技術開発担当)

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