TECHNOLOGY ARCHIVE

進化する超硬ソリッドドリルの歩み。

美しき曲線デザインに隠された時代に風穴をあける挑戦の歴史

1980年代後半、業界に先駆け登場した超硬ソリッドドリル「ZET1ドリル」。
その遺伝子は、現在の三菱マテリアルの主力製品である「WSTARドリル」へと受け継がれていく。今号では、超硬ソリッドドリルの進化の変遷を追った。

Part 1 1987~ ドリル性能の常識を変えた「ZET1ドリル」

 さまざまな産業において、バニシングドリルやハイスドリルが主流であった1980年代後半。三菱マテリアルが開発に着手したのが、「超硬ソリッドドリル」でした。市場にはすでに超硬ろう付けドリルが存在していましたが、技術的な理由から大径ドリルに限られていました。しかし、超硬の小径ドリルが必要とされる時代が必ず来ることを見据え、掘っ立て小屋とも言える、製作所の片隅でその開発が始められたのです。まず、小径ドリルを作るためには、ろう付けではなく、ソリッドであることを必須条件としました。しかし、当時はまだあらゆるものが手計算で行われており、例えば理想的な溝形状のデザインから切れ刃形状のデザインとトライ&エラーをひたすら繰り返す日々。言い換えればそれは、今では当たり前となったデータやシミュレーションを前提とした製品開発ではなく、技術者としての経験や感覚による製品開発を行っていた時代でした。開発を重ね数年が過ぎた1987年、ついに業界に先駆け誕生したのが、超硬ソリッドドリル「ZET1ドリル」だったのです。
 当時、市場の約7割はまだハイスドリルを使用しており、超硬ソリッドドリルとしての「ZET1ドリル」の性能には確かな自信を持っていました。加工能率は5倍、工具寿命は10倍、切りくず排出も安定しており、加工性能も高い。まさに飛躍的な進化でした。しかし、その期待に反し、販売は順調ではなかったのです。その理由の一つはまず、価格。ハイスドリルに比べると、その差は約30倍。これまで500円で買っていたものが、15,000円になる。最終的に1穴にかかる費用は下がり、生産効率も高まるのですが、価格の面から超硬ソリッドドリルの良さを聞き入れてもらう状況を作ることが難しかったのです。もう一つの理由は、そもそも超硬ソリッドドリルの扱い方や加工方法が全く浸透しておらず、使い方を教えることから始めなければならなかったこと。当時は、超硬ソリッドドリルで可能になったノンステップ加工を行うための工作機械を導入していないお客様も多く、工作機械メーカーも巻き込んで、共に協力しながらその使い方をレクチャー。お客様の方でハイスと同様の使い方をしてしまい、超硬ソリッドドリルが欠けてしまったというご連絡をいただくことも多く、一人ひとりのお客様に対する丁寧な情報提供を行っていきました。また、ハイスと異なり、再研磨という考え方もなかったため、超硬工具との付き合い方も浸透させていったのです。そうした普及も兼ねた販売活動は、非常に時間を要するものでしたが、地道な活動を重ね、やがて自動車産業を中心に「ZET1ドリル」は普及していきます。今振り返れば、この苦労を乗り越え、お客様に製品の良さを理解いただき、お褒めの言葉をいただいた達成感は、いまだに忘れられない記憶として残っています。

HISTORY 超硬ソリッドドリル進化の歩み

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Part 2 2002~ ZET1を超え、生まれ変わったWSTARドリル

「ZET1ドリル」誕生から約10年。超硬ソリッドドリルも業界に浸透し、他社を含めたさまざまな製品が登場していました。ZET1ドリルにもさらなる進化が求められており、どんな改良を加えるべきか、開発チームは壁にぶつかっていました。その時、開発部長からこんなアドバイスが与えられます。『とにかく、飽きるまでレモン石けんを削ってみろ』。その日から数日間、自社と他社のドリルを手で回し、大量のレモン石けんにひたすら穴をあけていきました。すると、どこで抵抗がかかるか、どう切りくずが排出されるか、手の感覚を通じてさまざまな発見があるのです。そこから発想されたのが、ZET1ドリルの直線形切れ刃から曲線形切れ刃へのシフトでした。これまでにないウェーブ刃形を実現できないか。もう一つのヒントは、料理をしている時にふと訪れます。食材を切り刻むフードプロセッサー。その大胆な曲線にインスピレーションを得て、トライ&エラーを重ねたどり着いたのが、独特のウェーブ刃形を採用した超硬ソリッドドリル「WSTARドリル」だったのです。
 このウェーブ刃形と新溝形状により、コンパクトな切りくずの生成と良好な切りくず排出を可能にしました。また、求心性に優れる先端形状により高い穴位置精度を実現。さらに、ミラクルコーティングVP15TFを採用し、長寿命化を図ることができました。こうして2002年にデビューした「WSTARドリル」は、求心性が高く、長寿命を実現し、今でも多くのお客様にご愛用いただく製品となったのです。

Part 3 2006~ さらに進化を遂げるWSTARドリルシリーズ

 2006年以降、「WSTARドリル」は、時代のマーケットニーズに合わせさらに進化していきます。炭素鋼・合金鋼をメインターゲットとした汎用タイプ(MWE/MWS形)から、アルミ合金、高硬度鋼、ステンレス鋼CFRP材などの各被削材の加工に特化した専用タイプ(MNS形、MHS形、MMS形、MCS形)、高精度タイプ(MQS形)、アスペクト比L/D=30までの深穴加工用タイプ(スーパーロング)まで、個別のニーズに合わせたシリーズを拡充させていきます。その製品一つひとつに三菱マテリアルならではの技術と創意工夫が施されています。例えば、アルミ合金加工用に開発したMNS形。切りくずが凝着しやすいドリル中心付近へのピンポイント潤滑を可能にするために参考にしたのは、自動車の4つ目のライトでした。従来の2つ穴にこだわらず、製造技術グループと連携し、世界で初めて4つ穴のクーラントホールをもつドリルを作ったのです。こうした技術をさらに活かし、2013年に発売した汎用超硬ソリッドドリル「MVE/MVS形」では、非常に精度の高い製造技術が求められる独自のクーラント穴TRI-Coolingテクノロジ-を採用。流量を画期的に増やすことで、冷却性、潤滑性、切りくず排出性など、ドリルそのものの性能をクーラント穴のデザインという角度から高めることに成功しました。また、ドリル専用PVDコーティング材種(DP1020)により、さらに幅広い被削材で長寿命を実現。まさに新世代にふさわしい超硬ソリッドドリルとして活躍しています。

CLOSE UP 三菱マテリアルの技術とこだわりの結晶「クーラント穴付き素材の製造技術」

クーラント穴付き素材の製造を開始したのは1988年。この27年もの間、クーラント穴形状は進化を続け、それを支えてきたのは素材の製造技術でした。そんな、クーラント穴付き素材が生まれるまでの工程を紹介します。

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 クーラント穴付き素材は、近年小径化やロング化のニーズが高まり、素材製造の難易度は年々高まっています。例えば、極小径では製品そのものが細い分、溝の厚みが非常に狭いため、より精度の高い穴位置とピッチ精度が求められます。ロングドリルも同様に、安定したリード長をいかに生み出すのかが重要になっており、日々その製造技術は進化を続けています。また、クーラント穴付き素材のクーラント穴形状は丸穴が一般的ですが、三菱マテリアルでは、ドリルの性能をより高めるため4つ穴や三角穴など、従来の2つの丸穴とは異なる形状を開発・製造しています。被削材に特化してクーラント穴形状を使い分けているメーカーは三菱マテリアルだけであり、さまざまな形状は、同じ敷地内にドリルと素材の工場があるからこそできる、両メンバーの強い連携と苦労から生み出されたものです。この3種の形状のクーラント穴には、素材から製造する三菱マテリアルならではの技術の結晶と、誇りが込められているのです。

ソリッドドリルの歴史を紐解いて

 「ZET1ドリル」誕生から約30年。これまでの超硬ソリッドドリルの歩みを振り返ると、そこには素材から完成品まで一貫して開発・製造できるメーカーだからこそ、マーケットニーズがすべての工程で一直線に伝わり、開発チーム一丸となることで新たな製品を生み出してこられたのだと実感しています。これからも、柔軟な発想で新形状&新材種を生み出し、さらなる革新へと歩み続けていきます。

開発本部 ドリル・超高圧開発グループリーダー
柳田 一也

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