CUTTING EDGE

自ら回り、境界部をなくす

20年前に開発・発売していたロータリー工具

 きっかけは、とあるお客様の要望でした。量産部品加工ラインにおいて、インサートのコーナチェンジを減らしたい。そして、インサート全周を余すところなく使いたい。一見無謀とも言えるこの要望、解決のためには根本的な発想の転換が求められました。そこで思いついたアイデアが、インサートそのものを回転させるロータリーバイトだったのです。開発初期にはインサートを回転させるため、軸受としてすべり軸受を始めとしたさまざまな軸受(含油軸受、固体潤滑、超硬+DLCコーティング)を試しました。しかし、切削条件によって回らなくなるなどのトラブルが発生。すべり軸受を使った機構ではインサートを回転させることは難しいことが分かりました。そこで、すべり軸受に代わり、転がり軸受としてニードルベアリングを採用。回転に関する問題は解決できましたが、切削熱の影響を受けること、潤滑向上、切りくずの侵入防止や小型化が難しいといったさまざまな課題が新たに発生しました。メカニカルシールを採用するなど、これらの問題を一つひとつ解決していき、やっと実用に耐える状態にたどり着くことができたのです。実際に使用してみると、インサート全周を使えるだけでなく、被削材との相対速度が下がる効果により、さらなる耐摩耗性の向上にも寄与することが明らかになりました。

cut_rotatingtool_01_ja.png

独創的な回転工具により、 異常損傷を抑える

 このようにして、三菱マテリアルが開発した回転工具であるロータリーバイトでは、バイト先端に取り付けられたインサートが切削力により自動的に回転することにより、以下のようなメリットが得られました。
[1]摩耗を均一にし、インサートを使いきるまでコーナチェンジが不要
[2]切削ポイントが常に移動しているため、切れ刃境界摩耗(囲みコラム参照)が発生しない
[3]切削熱が1点に集中しないため、熱に起因するインサート摩耗も抑制

 この3つの効果により、下のグラフの通り、固定工具と比較して安定した長寿命工具の実現が可能となったのです。工具の異常損傷は、被削材の強度が高い場合、切削中に高熱が発生する場合や被削材が加工硬化しやすい場合などに引き起こされます。一般的な工具では、切込みを小さくする、切削速度を下げるといったように切削条件を落とすことで異常損傷が発生しないようにしますが、逆に加工能率は低下してしまいます。ロータリー工具では、切削しながら工具の刃先を回転させることで、これらの問題を解決し、加工能率の向上・工具の長寿命化を達成しているのです。

cut_rotatingtool_03_ja.png

 約20年前に発売されたロータリーバイトは、斬新な機構とその切削性能により、お客様から好評を博しましたが、従来タイプの低価格化・性能向上が進み、残念ながら今では標準品ではなくなりました。しかし、異常損傷を抑えるためには非常に効果的であり、被削材の難削材化が進んだ現在では、改めてその価値が見直されています。三菱マテリアルではロータリー工具のノウハウを、20年前の開発メンバーから工具開発の若いメンバーへと継承し、現在の被削材・加工機械にマッチした次世代のロータリー工具の開発を進めています。ぜひご期待ください。

境界摩耗とは

 一般的な工具では、切れ刃の切込み境界部は、被削材の加工硬化層や鋳物の鋳肌、鍛造品の焼肌などが影響して、境界摩耗と呼ばれる損傷が大きく発生します(下図)。切削加工によって塑性変形した被削材表面付近は、加工硬化によって硬くなり、その部分を削ることになる切込み境界部は、切れ刃の他の部分より損傷が大きくなるのです。鋳肌や焼肌面も同様に表面付近が硬くなっていますので、切込み境界付近の損傷を助長します。とりわけ、INCONEL®718やステンレス鋼などは大変加工硬化しやすい被削材となりますので、他の被削材と比較して、この境界損傷が生じやすくなります。

cut_rotatingtool_04_ja.png

INCONEL®はHuntington Alloys Canada, Ltd.の登録商標です。

トップページへ