FOCUS on PERFORMANCE

高山医療機械製作所

(東京都荒川区)

先端部分の刃の薄さ、わずか0.08mm脳の奥の切りにくいところをスパッと切るハサミ。
人の命を救いたい、そんな医師の要望に技術力で応える。

「アーティスト」「コンサルタント」と称される加工技術の探求

 東京都荒川区、ごく普通の住宅に見える建物の1階、その曇りガラスの引き戸を開けると、スイス・BUMOTEC社製の小型マシニングセンタS191が目に飛び込んできました。この高性能マシンを購入するためにスイスまで足を運んだ髙山隆志社長は、商談後の相手社長のひと言が未だに忘れられないと語ります。

 「ミスタータカヤマは、従業員が10人もいない会社なのに、うちの機械を買うそうだ、と笑いながら言われたのです」。

 けれども、結果的に髙山社長はこの機械を縦横無尽に使いこなし、BUMOTEC社の社長を「君たちはアーティストだ」とうならせる製品づくりに成功します。

 「今ではBUMOTEC社の機械を求める日本企業があれば“東京に髙山という人がいるから、まずその人に相談するように”などと言っているようです。何のことはない、私は同社のボランティア・コンサルタントとして使われているようなものです」と、笑いながら髙山社長は語ります。

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荒川工場内で稼動するBUMOTEC社製の小型マシニングセンタS191, 株式会社高山医療機械製作所 代表取締役社長 髙山 隆志氏

 一方でもう一カ所ある別の工場では、今度は全く同じ複合加工機が3台設置されていました。

 「これはドイツ・インデックス社のTRAUB、スイス型CNC自動旋盤TNLシリーズで、アジアには3台しかありません。つまり、この工場にあるのが全てです」。

 海外メーカーのマシンを駆使してつくられる株式会社高山医療機械製作所の主力製品は、脳神経外科のバイパス手術用のハサミやピンセットなど。中でもハサミの国内シェアは実に約9割に達し、日本の脳外科医のほとんどが同社製のハサミを使っています。特に同社の代表製品と言えるのが、「上山式マイクロ剪刀ムラマサスペシャル」です。これは、札幌禎心会病院の脳外科医、上山博康医師の求めに応じて開発されたもの。世界の脳外科医のスタンダードとも評価されるムラマサスペシャル、その刃の先端の厚みはわずか0.08mmと極薄でありながら、切れ味は抜群。使い勝手の良いハサミの愛用者は、世界中に広がっており、取引先は世界30カ国以上に増えました。海外展開を始めたのは、わずか2年前にもかかわらず、同社での売上は現在、約3割が海外向けとなっています。

 「おかげで年間100日は海外で過ごすようになりました。輸出先が増えると、各国で微妙に異なるレギュレーションに合わせて調整しなければならないから、生産工程にとてもストレスがかかります。けれども、求められたら断れない性格だから仕方ないですね」と、髙山社長は話します。

医師の求めに応じて生まれた「ムラマサスペシャル」

 高山医療機械製作所は、1905年の創業以来、医療用のハサミやメスなどの刃物製作ひと筋に取り組んできました。ただし髙山社長が機械化に踏み切るまでは、全工程を先代社長をはじめとする熟練職人の手作業で賄っていたのです。

 「設計図もなく、先代がつくった見本を見ながら、ひたすら同じものをつくっていく。まさに職人芸の世界ですが、これでは見本以外の情報がないため、毎回ゼロからの作業になります。安定した品質が絶対条件となる医療機器の製造において、現状のままでは量産できないと考え、思い切って機械化へと舵を切りました」。

 とはいえ当時は、加工のノウハウもなく、専用の工作機械など存在しません。そこで髙山社長は、材料工学や切削理論などの書籍を読み込んで独学に励むと同時に、機械を購入して改造を重ね、治具も独自に考案するなど切削加工による製造法を模索していきました。

 そんな中で、上山博康医師と出会います。「匠の手」と称される手術技術を持つ上山医師は、術技を極めるため手術器具も自ら開発していました。その求めに応じてつくりあげられたのが「上山式マイクロ剪刀ムラマサスペシャル」です。

世界の脳外科医のスタンダードとも評価されるムラマサスペシャル
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 脳内奥深くの細かい部分を正確に切るためには、刃先は可能な限り小さく薄くしたい。けれども刃が極端に薄くなると、2つの刃が安定して交わりにくくなり切れ味が悪くなります。そこで上山医師が目をつけたのが、ナギナタのように曲がった刃でした。その要望に応えることによりスパッと切れる切れ味を実現したのです。

 これ以降、髙山社長は上山医師の求めに応じた製品開発に励むと同時に、手術に立ち会って脳外科医の動きに関する知見を積み重ねていきました。脳外科の専門書を読み解き、手術中の医師の動きの意味を自らの目で確かめながら理解する。そんな中で新たな製品開発のヒントを見つけていったのです。

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株式会社高山医療機械製作所 機械工作課 荒川工場長 中村 将季氏, ドイツ・インデックス社のTRAUB、スイス型CNC自動旋盤TNLシリーズ

製品ありきではなく、手術中の医師にかかる負荷を下げることをまず考える

 手術に立ち会う中で、髙山社長は重要な気づきを得ます。脳外科の手術は、最低でも2時間以上かかる長丁場です。けれども、手術の核心となるのは脳内奥深くにある患部の処置であり、それにかかる時間は、手術全体のうち20分ぐらいにとどまります。ただし、脳を扱っているだけに、開頭してから患部に辿り着くまでの間も、医師は一瞬たりとも集中力を切らすわけにはいきません。

 「ヘトヘトになっているにもかかわらず、そこからさらに極度の集中力を求められる。先生の負荷を少しでも下げるために、自分に何ができるだろうと考えるようになりました。手術を数多く見せてもらっているので、術野がどうなっているか、作業スペースがどれぐらいあるのかは理解しています。そこで『切ること』と『縫うこと』に特化した使いやすい器具をつくるのが、開発のテーマとなりました」。

 そんな中で生まれたのが、先端部にタングステンを浸潤させたピンセットです。患部の縫合にはピンセットとマイクロ針が使われますが、部材はステンレスで滑りやすいのが欠点でした。そんな器具を使いながら、脳外科医は1mmの血管を8針も縫わなければならない。まさに職人芸の世界であり、選ばれたドクターにしかなしえない手技です。

 こうした状況を打ち破るため、上山医師の弟子にあたる谷川緑野医師と共同で開発したのが、先端部分に滑り止めのタングステンを浸潤させたピンセットです。

 「これで針が滑らなくなり、それまで20分かかっていた血管縫合が15分でできるようになりました。滑ることを前提に組み立てられていた従来の術式が一新されました。この滑らないピンセットは脳外科医の間でかなり話題になったようで、発売初年度に国内だけで600本ぐらい引き合いがありました」。

 滑り止めとして先端部分に何かを加えるアイデアは、以前からあったと髙山社長は語ります。ただ、タングステンを単純に付着させるよう業者に頼んでも、うまくいきませんでした。そこで思いついたアイデアが「プラズマ状態にし、イオン化して浸潤させること」。

 言葉に表現すればわずか一文ですが、それを思いつくためには、金属についての深い知見に裏づけられたアイデアの引き出しがないと不可能です。なぜ、それほどにもアイデアをためておけるのか。その理由を髙山社長は「少しでも手術を安全にするため、常にアイデアを探しているから」と答えます。

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人の命に関わるからこそ、精度と安全性に徹底的にこだわる

 高山医療機械製作所の手術用具が、医師たちから高く評価される理由は“手術時間が短くなるから”です。脳奥の深くて切りにくいところをスパッと切る、掴みにくかったものをすんなりしっかり掴めるようになる。最近では、顕微鏡や内視鏡の性能が高まっているため、より精細な手術が可能になっています。ただし、そうした手術を実現するためには、より精細に使える道具が必要となります。

 こうした要望にも応えるために、髙山社長は高価ですが、多機能で高剛性なヨーロッパ製のマシニングセンタの導入に踏み切りました。前述のBUMOTEC社の機械を使えば、旋削からミーリングまで全工程が完全に自動化できます。とはいえ、ここに至るまでには長い時間が必要でした。

 「まず先代の見本を参考に、全製品を図面に落としました。次に図面に則って機械を動かすプログラムを全て私が書きました。機械の動きを理解し、考えられる限りの加工パターンを全部プログラム化したのです。結果的に合計100ぐらいのプログラムを書き出したのはいいけれど、今度はプログラム通りに動かすと、中で工具がぶつかる。そこでメーカーに連絡すると、あらためてセットアップしに来てくれる。そのあたりのメーカーとの関係性は、とても重要ですね。おかげでうちのBUMOTEC社は、ほぼ完全にカスタマイズされています」。

 工夫を凝らすのは機械だけにとどまりません。材料にチタン合金や難削材が多いために、連続運転では精度が出ず、チャックが滑って衝突するなどの問題が起こります。これを解決するため、部分的に特別な加工プログラムを組み、また、特殊な工具の使用やオリジナルの潤滑油を使用するなど、さまざまな工夫を重ねてきました。

 また、同社ではさまざまな独自の手法を貫きながらもISO13485を取得し、米・FDAの監査もクリアしています。

 「ISOも13485は要求事項が煩雑で、指示通りにやろうとすると社内のプロセスが混乱します。そこで要求事項一つひとつの意味をコンサルタントと協議しながら、当社のやり方で要件を満たす方法を模索していきました。結果的にカスタマイズしながらも要求事項はきちんと満たしているので、監査もすんなりと通りました」。

 ただし、カスタマイズといっても、安全性の確保が最優先であることに変わりはありません。例えば、今取り組んでいる医工連携のプロジェクトにおいても、髙山社長が最も注意するのが安全性です。そのこだわりぶりは徹底しています。例えば器具のデザインにより完全に滅菌できない部分が出るリスクや、異種素材を組み合わせて使う際に起こりうる素材の電位差が引き起こす腐食にまで配慮するのです。

 「万が一、手術中に使っている器具が折れたらどうなるか。滑ってネジを落としたら何が起こるか。そう考えるとリスクマネジメントには、どこまで細心の注意を払ってもやりすぎということはありません。リスクをくまなく考える際に頼りになるのは、100年かけて培ってきた智慧です。素材のこと、加工のことを体で覚えているから、力をかけたときの負荷がどこにどれぐらいかかるかまで体感的に分かる。扱っている製品が、人の命を左右するものだから、安全性への配慮に妥協することはありません」。

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新開発したイリゲーション・サンクション。上山医師のオーダーにより作成したオリジナルの手術器具。
吸うと吐くを一つでこなすオールチタン製の器具は、開発に5年をかけた。国際特許取得済み

切削工具の改善で、さらなる高効率と高精度の追求へ

 しかし、切削工具の領域においては、まだまだ改善の余地があると髙山社長は話します。

 「当社はもともと、職人の手作業でしかできない高精度な医療部品が強みでした。しかし、そのクオリティーを維持しながら機械加工による無人化を図り、高付加価値な医療部品をより安定して供給する環境づくりを追求してきました。当社が扱うのは、難削材の一種であるチタン合金です。特に当社の加工は特殊な部分が多いため、工具の材料への食いつきが悪いチタン合金に対し、プラスチック向けのエンドミルを使った方が食いつきが良かったケースもあります。あるいはインプラントでは低侵襲が課題となるため、全てのコーナーにR付けを求められます。こうした加工では、高速加工時にも切れ刃が被削物を確実に切削しなければなりません。こういったさまざまな条件を加味していくと、工具自体の性能もさることながら、当社の条件に適した工具選びやその使い方について、工具のプロフェッショナルである切削工具メーカーからの提案を期待しています」。

 これに対して、中村将季工場長は次のように続けます。「その点、三菱マテリアルさんは医療向けの製品展開や自動盤向けの工具開発を積極的に推進していると聞いています。特に興味があるのは、やはり難削材加工の製品やノウハウです。難削材用スマートミラクルエンドミルシリーズやチタン合金用鏡面ラップ旋削インサートなどは当社のニーズに近く、一度性能評価をしてみたいと思いますので積極的に提案してもらいたいですね」。

 最後に髙山社長は当社に対する期待について、付け加えてくださいました。「かなり特殊なニーズで工具メーカー側のメリットになるかは分かりませんが、実は、私の中ではつくってほしいオリジナルの工具についてのアイデアもあります。その点、三菱マテリアルさんの製品開発力にも期待しています。今後、機械メーカーと同様、互いの領域のプロフェッショナル同士として、切削工具メーカーとの協業も重要になってくると思います。三菱マテリアルさんには、切削工具のプロとしてノウハウや技術を持って、当社のクオリティーを支えてもらえればと思います」。

 今後も、医師が求める器具に加えて、医師の作業をより安全に容易にする器具を開発していく同社のビジョンは変わりません。安全に手術時間を短くできれば、手術の成功率が高まり患者さんのためになる。この原点が、新製品開発や製造工程の改良など、全てにおいてブレることなく貫かれていく。そうして生まれた医療機器たちが、今日も、明日も世界の多くの人々の命を救っていくでしょう。

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