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IHI 相馬第二工場

IHI 相馬第二工場

航空機用エンジンのさらなる増産に向けて新たな生産技術の確立に挑む

株式会社IHIの相馬第二工場は、航空機用エンジン部品のディスク、ブリスク、ギヤなど3,500種類以上もの部品を生産しています。700台を超える設備を保有し、延べ10万以上の製造工程を駆使することで、多品種少量生産を可能としている工場です。今回は、世界の航空機産業を支えている、最先端の切削加工の現場を訪ねました。

日本の航空機用エンジン生産のリーディングカンパニーとして

 株式会社IHIは「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの領域で事業を展開しています。中でも航空宇宙事業は、日本で生産される航空機用エンジンの60〜70%を担当しており、世界の空の交通を支えています。また、日本の防衛省が使用する航空機のほとんどのエンジンを主契約者として生産しています。小型から大型まで各種民間航空機用エンジンの国際共同開発事業にも参画し、モジュールや部品を開発・製造、供給しています。さらに、エンジンの開発・製造で積み上げたノウハウは、メンテナンス・整備事業にも生かされ、海外エアラインからの整備委託を受けるなど、多くのお客様から高い評価を得ています。

最新鋭の設備を備えた相馬第二工場

 IHIは航空機用エンジン部品の生産から組み立て、整備までを呉第二工場(広島県呉市)、瑞穂工場(東京都瑞穂町)、相馬第一・第二工場(福島県相馬市)の4つの工場で行っています。そのうち最大規模であるIHI相馬工場は、福島県の太平洋沿岸から内陸へ10㎞、なだらかな丘が続く相馬市大野台の丘陵地にあります。

 相馬第一工場は1998年に航空宇宙事業本部の4番目の生産拠点として田無工場(東京都西東京市)の機能を一部移設して誕生し、航空機用エンジンの部品などの加工を行っています。その後、2006年に田無工場の残りの部分を全面移転したのが、相馬第二工場です。広大なスペースを生かし、電気の配線や圧縮空気の配管を建屋の梁に沿って各種設備に供給する仕組みをとっています。そのため、設備のレイアウトを自在に行え、需要の増減に柔軟に対応できるのが特徴です。工場内は切削油の匂いもなく、とても清潔で、作業者にとっても働きやすい環境が整えられています。

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航空・宇宙・防衛事業領域 生産センター 相馬第二工場 生産技術部長 髙橋良二氏 / 同技術部 技術担当 安藤正恵氏 / 同技術部 主査 岡田初雄氏

航空機用エンジン部品のものづくりの奥深さ、新たな切削加工技術確立への執念

 航空機の需要は今後も安定して増加していくといわれる一方、環境にやさしい航空機用エンジンのニーズも高まってきています。このような背景のもと、低圧タービン部品などを多く生産する相馬第二工場では、どのようなものづくりがなされているのでしょうか。同工場の生産技術部の髙橋良二部長、岡田初雄主査、安藤正恵技術担当の3名に、最新の切削加工の現場についてお話を伺いました。

―貴社の高いシェアを支える強みとは何でしょうか。

髙橋氏  当社は航空機用エンジン部品の生産および組み立てにおいて、非常に長い経験とノウハウがあります。特にシャフトと低圧タービン部品においては、多くのお客様から信頼をいただいていると自負しています。我々の事業は、もともとは防衛省向けのビジネスで成長してきた経緯がありますが、近年は民間企業向けの売上比率の方が高くなっています。また、製造技術という観点では、エンジン全体を製造することができる多くの技術・技能を有する数少ない企業の一つだと考えています。

―航空機部品製造の奥深さについて教えてください。

髙橋氏  航空機のエンジンには、軽量かつ高強度、つまり切削加工が困難な素材が多く用いられています。航空機用エンジン部品のほとんどのものには、0.01mm単位の加工精度が求められます。これらの厳しい品質を支えているのが、細部まで徹底的に管理された製造ルールです。エンジンの開発においては、長期にわたって数々の加工試験や工具の性能評価などが行われ、最終的に製造工程が固定化されます。つまり、一度登録された工具は簡単には変更できない、ということになります。もちろん、生産性の大幅な向上が見込まれる場合、製造メーカーとしては工程変更をしてでも工具の変更を行う価値は十分にあるのですが、厳密な手順を踏む必要があります。規定化された工程変更の手順に沿って手続きを行い、再度厳格な審査を受けて承認を取り直さなければならないため、実際には口で言うほど簡単ではありません。そういう意味では、量産前にいかに高精度な加工が可能で、生産性の高い製造工程を組めるかが、我々生産技術の存在価値といえます。

―近年の航空機用エンジン部品加工の現状についてお聞かせください。

岡田氏  近年は航続距離をできるだけ長くするために、特に燃費の良い高性能な次世代航空機の開発が積極的に行われています。このような航空機に搭載されるエンジンには、さらなる高温耐久性を持つ新素材が適用されるほか、より一層の軽量化が求められます。

髙橋氏  そのため、至近10年くらいで複合材料が非常に多く使用されるようになりました。運航コストを抑えつつ、CO2の排出を削減するには、とにかく燃費を良くする必要があります。これが、軽くて強い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やセラミック基複合材料(CMC)の使用比率が増えている理由です。一方で、従来使用されている金属もまだまだ必要とされており、さらに強度を上げるための合金開発も絶えず行われています。素材の強度が上がれば、それだけ板厚を薄くし軽量化することができるため燃費は向上しますが、複合材・高強度の合金ともに、切削加工としては年々難しくなる一方なんです(笑)。また、今後航空機の需要が大きく拡大するということは、それだけたくさんの航空機が航行するということですから、環境への負荷という観点での基準もますます厳しくなっていくでしょうね。

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(左)三菱マテリアル 加工事業カンパニー 営業本部 仙台営業所 寺島幸史朗

―素材の進化と切削加工技術の発展にはどのような関係があるのでしょうか。

髙橋氏  軽量化の効果はとても大きく、例えば回転する部品が全て軽量化されれば、ベアリングや他の静止部品も強度を下げることができ、軽量化することができます。エンジン全体がますます軽量になることで、燃費が大幅に向上し、絶大な経済効果が期待できます。しかも、同時に環境への負荷も少なくなりますので、いいことずくめです。しかし、素材の強度が上がると、多くの場合切削加工は難しくなります。どんなに良い素材ができたとしても、それを加工する技術が伴わなければ産業は発展しません。切削工具そのものはもちろん、それを使う加工技術の双方が高いレベルになければ、軽量化を実現することはできません。

安藤氏  近年の航空機用部品に使用される素材は、難削材であることは当然として、加えて非常に高価であるという特長があります。そのため、加工中に工具が破損しても、製品にダメージを与えないような加工方法を考えることも大切になってきます。いかに加工コストを低減しながら高い品質の製品が提供できるかという基本的な課題に加え、加工中になんらかの不具合が生じたとしても、製品には極力影響が出ないようにしなければなりません。

岡田氏  今後、さらに素材が進化していくことを考えると、今のような切削加工ではどうしても削れない素材が出てくるかもしれません。仮に切削加工は残っていたとしても、レーザー加工や放電加工などの別の加工方法との併用が普及しているかもしれません。もしそんな時代が来たら、切削工具も今の姿とは全く違っているのかもしれませんね。

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―切削加工技術の進化に対して、生産技術はどのように対応しているのですか。

岡田氏  直近の例を一つ挙げますと、需要が拡大してきている航空機用エンジンの増産に対応するため、ディスクと呼ばれる部品の生産性を大幅に向上させる必要がありました。特にダブテール部(※ディスクにブレードを取り付けるための嵌合箇所)の加工は従来ブローチ加工で製造していたのですが、ブローチ盤自体が非常に高価であり、工具の納期も比較的長くかかってしまいます。また、ブローチは低切込みの切削加工であることから、どうしても生産性を劇的に向上させることが難しかったため、従来の製造方法と全く違う方法が確立できないか、ということを模索していました。そこで、まずはダブテール部の荒加工を転削加工でやってみようということになり、2年間ほどかけてようやくモノになってきたところです。転削加工に変更するメリットは、まず工具が安定して入手できること、しかも形状や材種の改善がしやすいことがありますが、そもそもブローチの切削加工と比べて生産性が段違いに高いですよね。しかし、デメリットもあります。加工数量に対する純粋な工具費という意味では、通常はブローチの方が転削加工よりも安いということです。つまり、転削加工の場合、総工具費用を削減しなければ目標は達成できず、それにはツールパスを工夫して使用する工具の本数を最少にし、かつ工具1本ずつの工具寿命を最大限に延ばすことが必要でした。ブローチ加工から転削加工への工程変更は前例のない挑戦でしたので、大変多くの困難がありましたが、当社の若いスタッフが根気よく取り組み続けてくれました。取り組みの当初は加工試験をしては工具が折れる、ということが大変多くあり、弊社の担当者の心も合わせて何度も折れそうになるなど、「もう諦めるか・・・」という思いが頭をよぎることがありましたが、三菱マテリアルさんと共に、さまざまな加工方法の考案や数多くの試作工具の評価などを地道に重ねてきました。双方の技術者の最後まで絶対に諦めないという執念が実を結んだのだと思います。

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「世界一の加工」、そして「世界一の工場」を目指して

優れたエンジンをつくることは、高精度化と軽量化を極限まで追求することと同義です。部品精度の向上はエネルギーロスを低減させ、軽量化はエンジンの重量当たりの出力を向上させます。それは、低燃費・低騒音・低排出ガスといった環境性能の向上にもつながりますが、そのカギを握るのは間違いなく素材の進化です。より耐熱性に優れ、より強く軽量になっていく素材に対し、切削加工の技術も常にその進化に追従していかなければなりません。このような高い切削加工技術をベースに、新製品を生み出し続けていくのが相馬第二工場の使命なのです。

 最後に生産技術部長の髙橋氏は今後の展望について次のように語ってくれました。「近年当社での売上比率がますます高まっている民間航空機用エンジンの開発には特有のビジネスモデルがあります。それが開発プログラム・国際パートナーシップです。この民間航空機用エンジンの開発には、非常に長い期間と多額の資金が必要であり、各分野のベストプレーヤーがパートナーシップを組むという国際共同開発が主流になっています。各パートナーは出資比率に応じて開発費を負担し、ビジネスリスクを分散します。また、パートナー同士が一体となって長期的かつ戦略的な関係を構築し、製造、技術開発、プロダクトサポート、アフターマーケットサービス(スペアパーツ、エンジンメンテナンスサービス)などを担当部品群ごとにそれぞれの会社が請け負います。IHIは、航空機用エンジンの部品をほぼ全て、一通り製造できるノウハウがあることが大きな強みであり、パートナーとの交渉の中でタービン部品、シャフト、コンプレッサー部品、ファン部品と、その担当領域を着実に拡げています。我々が今まで担当してきたこれらの部品を、当社の得意事業として成長させていくことで、世界での競争に挑んでいます。

今後も「世界一の工場」というスローガンのもと、切削加工技術を含めた製造技術、品質管理技術を追求し、世界レベルのものづくり力にさらに磨きをかけていきます。その結果、いつかはIHI製のエンジンを搭載し、その他の部品も全て日本製のオールメイドインJAPANの民間航空機を飛ばすことができればと思うと、とてもワクワクしてきます。日本で航空機の開発や製造に携わっている人にとって、これは叶えたい共通の夢なのではないでしょうか」。相馬から世界の空へ。IHI相馬第二工場の世界一への挑戦は、これからも続いていきます。

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