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独自の進化を遂げる日本の切削加工の匠たち

「高品質」と賞され続けてきた日本の製品。その歴史を紐解くと、確かな「品質」を支えるために、厳しい競争の中で技術を磨き続けてきた無数の中小企業の姿があった。今回は、少人数でありながら、自らの視点で切削加工業界の未来を見据え、生き残りをかけた独自のものづくりの手法を確立してきた3つの企業を訪ね、ものづくりへのこだわりやそこにかける熱い想いを探った。

PART1: 株式会社正真鉄工所(兵庫県神戸市)

来たるAI搭載の工作機械時代に向け発想力を磨いていく

精巧な般若の面を5軸マシニングセンタで再現

 

株式会社正真鉄工所は、神戸市の先端技術型産業の集積地「神戸ハイテクパーク」の一画で、50年にわたり切削加工ひと筋に実績を積み重ねてきた企業です。創業者の真島正一氏が新しいもの好きだったこともあり、約20年前に『5軸マシニングセンタ』を同業他社に先駆けて導入し、常に最先端の加工機を揃え、高品質、高精度な部品加工を追求してきました。現在は火力発電プラントのガスタービン部品から、航空機や潜水艦のエンジン部品まで、幅広く手掛けています。

 2010年頃から、その高い技術力を効果的にPRする目的で、通常の受注業務とは別に、独自の切削加工ノウハウを結集した作品づくりを続けています。ステンレス製の完全削り出しのタンブラーやビアグラスの製作に始まり、江戸切り子風グラス、ワイングラス、さらには日本の伝統工芸品の一つである般若の面まで製作してきました。中でもこの般若の面は、5軸マシニングセンタで製作した、同社の技術の集大成とも言える作品です。「旅行先の土産店で見つけた木彫りの般若の面を目にしたとき、この職人の手によってつくられた精巧さを、5軸マシニングセンタによる切削加工で再現してみたくなりました」と真島昌伸社長は話します。製造工程は、まず180mm×180mm×300mmのアルミ合金のブロック材を荒加工した後、ソリッドエンドミルを駆使して般若の角や顔の表情、皺などの細かい部分まで、素材を一度も掴みかえることなく仕上げていきます。「このような超精密な加工は高性能な工作機械があるだけではできません。私たちの経営方針でもある『発想を豊かにものづくり!』にもつながりますが、最適な工具を選定し、切削プロセスを考え、独自に治具を工夫するなど、技術者としての豊かな発想力が不可欠です。5年後10年後には確実にAI(人工知能)を搭載した工作機械が普及しているでしょうが、AIでは思いつかないような発想力を鍛えるためにも、このような作品づくりに取り組んでいます」。この般若の面は、5軸切削加工コンテスト『MACHINING EXPERT CONTEST』で、日本代表10社のうちの1社に選ばれ、高 い評価を得ることができました(主催:ドイツ ハノーバー大学生産工学・工作機械研究所/技術パートナー:DMG森精機株式会社)。


株式会社正真鉄工所 代表取締役 真島昌伸氏

工作機械と会話する職人たち

 最終製品の軽量化・小型化が進む今日、切削業界においても、今後ますます超薄肉加工や超微細加工のニーズが高まると予想されています。真島社長は、「このような加工領域では、AIを搭載した工作機械といえども、そうそう簡単には削れないはずです。現在、当社では究極の薄肉加工に挑戦しています。それが、厚みがわずか0.2mmしかない、アルミ合金でできた紙飛行機形状の再現です。アルミ板を0.2mmの厚みまで削り、表面をソリッドエンドミルで微細加工していくもので、ここまでワークが薄肉になってくると、少しでも力の加減を間違うと板が曲がる、折れる、もしくは破れてしまうため、極めて慎重に、しかもなるべく早く削らなければなりません」と語り、製造部の小南佑允リーダーは「普段の作業でも同じですが、特に微細加工では『機械と会話』しながら加工することが大切です。オペレーターが身体の一部を機械に触れながら、感性を研ぎ澄まして音や振動を肌で感じとり、その感覚を基に、切削条件や治具の形状、クランプ方法などを調整していきます」と職人としてのこだわりを語ってくれました。


いい職人は完成までのプロセスをイメージできる

 「腕のある職人は図面や簡単なスケッチを見るだけで、設計者の意図を汲み取り、完成までの全体の加工プロセスをイメージし、早く美しく仕上げる方法を思いつきます。私は、これこそが日本の職人の強みではないかと思っています。ここまでが自分の仕事、後は誰かがやってくれるので気にしない、ということではなく、全体の工程を常に考え、その中で自分のベストを尽くす。実は、このアルミ飛行機も私が紙でサンプルを折り、小南に渡しただけで、現場のスタッフと協力して完成まで仕上げてくれました。いい職人でしょ」と笑う真島社長に、小南リーダーはこう答えます。「私の技術なんて、まだまだです。私の理想とするところは、以前、当社に常駐していた協力会社の職人さんです。その方は汎用旋盤を使い、工具は自分で研いだバイト一つで、荒取りから仕上げまで、誰が見てもNC加工機で仕上げたような加工精度と切削速度で加工していました。完成までの工程管理、品質チェックまで自分でやっていましたね。あの職人技は決して真似できませんが、こだわりの職人魂は見習う点が多かったです」。 そして真島社長は、「職人とは感性。その感性はたゆまぬ努力により養うもの」と言い切ります。「当社では、いい職人を育てるために、入社した若手社員にろう付けバイトをプレゼントします。そのバイトを自分で研き、指先で刃先の形状を確かめ、汎用旋盤の手送りの感覚を体感することで、若いうちから感性を磨かせています」。

難削材に適した三菱マテリアルの切削工具

 同社が三菱マテリアルの工具を使い始めたのは、ミラクルコーティングエンドミルを発売した2000年頃からです。当時のことを三菱マテリアルの數原はこう語ります。「正真様は、それまでは海外メーカーの工具を主に使っておられましたが、より品質の良い工具を探していると商社様を通じてお聞きし、訪問いたしました。早速、三菱の工具を試していただいたところ、ステンレスが鉄のようにサクサクと削れていく様子に現場の皆さんは一様に驚き、以来、当社の工具をメインにご愛用いただいています」。真島社長は、三菱マテリアルの工具の評価を「切れ味が良くて寿命が長く、品質のバラ付きがありません。特に難削材の64チタンや55チタン、ニッケル、インコネル、そしてガスタービンの部品に使われている超耐熱合金の切削は三菱さんなしには考えられません」と話してくれました。

中小企業の地位向上を目指す「宣教師」のように

 グローバル化の時代を迎え、ますます厳しくなるコストダウン要請の中で、自ら安易に値下げして仕事を獲得しようとする同業他社が増えてきたと言う真島社長。「私たちの業界で常識となっている部品加工費の算出方法の多くは、人件費と加工機の費用は入っているものの、工場や事務所の家賃や光熱費、品質管理、納期管理に対する経費が含まれていないと思います。当社はそのような必要経費を全て含んだ上で見積りを出していますが、中には競合他社と比べて高いと言われるお客様もいらっしゃいます。しかし、費用算出の根拠を丁寧に説明すれば、大抵のケースでは理解していただけます。このように、本来必要であるはずの経費を含めた費用算出の考え方を私たちが『宣教師』となって同業者や顧客に広め、日本の切削加工業界全体における中小企業の地位を向上していくことができればと考えています。また、今後も好奇心を持って新しい加工に挑戦し続けるとともに、日本の機械加工産業発展のために貢献していきます」。

(上)株式会社正真鉄工所 製造部リーダー
   小南佑允氏
(中)独自の発想による作品の数々
(下)厚さわずか0.2mmのアルミ製紙飛行機

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(右) 三菱マテリアル 加工事業カンパニー 大阪支店 明石営業所 數原武宣

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PART2: キリシマ精工株式会社(鹿児島県霧島市)

3軸マシニングセンタで5軸と同等以上の超複雑形状の加工を実現する

高難易度の部品加工を実現するカーブカット工法

 鹿児島県の中央部に位置する県第二の都市・霧島市。国内の有名な製造メーカーの主要拠点が進出していることから、高い技術力を有する部品加工の中小企業が点在しています。キリシマ精工株式会社西重保社長は、もともと光通信や半導体の精密部品加工を手掛ける企業で工場長をしていましたが、過剰な設備投資により倒産。「西重さんが会社を興すならついていきます」という仲間の声や、設備を無償で提供してくれるかつての関係会社の後押しもあり、わずか5名の社員と5台の設備で2006年8月にキリシマ精工株式会社を立ち上げました。「当社が現在得意としているのは複雑形状の部品加工ですが、通常は5軸の高性能なマシニングセンタが必要です。しかし当時の資金力ではそのような工作機械を揃えることはできませんでした。そこで、当時保有していた3軸のマシニングセンタでなんとかしてみようと5名で知恵を出し合い、専用の治具を開発し、創業から1年をかけて独自の『カーブカット工法』を編み出しました」と話す西重社長。複雑形状であっても、ワークの掴み直しをすることなく一発加工を行うこの独創的な工法により、工程数を大幅に削減させました。一発加工は、加工スピードと同時に加工精度も向上するため、超微細加工が可能となり、歩留まりも向上します。この工法を確立したことで、2008年に鹿児島県経営革新企業に認定され、現在の地に24時間稼働可能な工場の新築・移転を果たしました。

一辺が0.2mmの極小サイコロや文字が消えるオブジェを製作

 「キリシマ精工さん、東京の展示会に出展しませんか」。2009年に、かごしま産業支援センターに誘われたことが、同社のPRを目的とした作品づくりのきっかけとなりました。「3軸マシニングセンタで複雑な微細加工ができることをアピールしようと、パッと見でインパクトのある作品をつくって人々の目を引こうと考えました」と製造部の佛山正信部長。溶接や組み立て、パーツの取り付けなどは一切行わず、切削加工のみで一発加工した継ぎ目のないチェーンや、カゴと小鳥が一体になった鳥かご、三角錘のフレームの中にチェーンがぶら下がっているピラミッドなどを次々と製作。特にピラミッドは工作機械メーカーのドリームコンテストの試作・テスト加工部品部門で技能賞を受賞するなど高い評価を受けました。作品はさらに進化し、わずか0.2mm角の極小サイコロまでつくってしまいました。肉眼ではほとんど見えない0.2mm角のステンレス鋼の立方体に、自社で製作した極小ドリルで賽の目を加工したもので、この極小サイコロは地元の新聞などに取り上げられるなど大きな話題を呼び、展示会や同社の工場を訪れてこれを見た人は一様に驚きの声をあげました。直近では、押し込むと文字が消える「匠」のオブジェを製作。炭素鋼で「匠の文字」と「クリアランス3μmの台座」のそれぞれを切削加工のみで製作しました。「あるときTVで似たようなものを見ていたときに、これうち(切削)でもできるかな?」と西重社長が佛山部長に尋ねてみたところ、その場で「できますよ!」と即答。「本当かな?と思って任せてみたら、2、3日後には完成品をちゃんと持ってきましたよ」と嬉しそうに西重社長は語ります。この柔軟性と知恵、ものづくりへの探求心が同社の強みと言えるのではないでしょうか。
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(左)微細加工により生み出された、数㎜サイズの作品たち (右)米粒より遥かに小さい0.2mm角の極小サイコロ


今ある機械を工夫して使うことがものづくりの醍醐味

 設立から約3年間は無我夢中で操業し、安い注文から急ぎの注文まで、とにかくやれることは何でもやり、毎日夜遅くまで働き、さらには休みの返上までもしていました。その頃の心境について、西重社長はこう語ります。「本当にこれでいいのか?自分はこういう会社をつくりたかったのだろうか?これで従業員は幸せと言えるだろうか?」と。そのような苦しい日々の中、何気なく参加した展示会で、非常に高い評価を受けました。「これで大きな自信がつき、他社ができないような難易度の高い、複雑な精密加工に特化することを決意しました」と西重社長は当時を振り返ります。『できないとは言わず、挑戦しよう』を合言葉に、難削材や超微細加工が得意であることを積極的にPRし続けることで、現在では半導体、医療、衛星部品、装置関連など、幅広い業界の超精密部品を手掛けるようになりました。このような難易度の高い加工には三菱マテリアルの工具が欠かせないとのこと。「工具の精度や切れ味が良く、急ぎの場合でもすぐ持ってきてもらえるので、とても頼りにしています」と佛山部長は言います。

 また、同社ではお客様からの注文を受ける際、幹部社員が集まる毎日の昼礼で、お客様の図面を全員で見て問題点を洗い出し、こうすればさらに品質が安定する、低コストでできるなどの方法を検討しています。その結果をお客様に提案し、了承を得た上で正式な見積もりを出すなど、付加価値の高い部品加工を行うための工夫をしています。
 さて、従業員の皆さんは最新の5軸のマシニングセンタを欲しくはないのでしょうか。その質問に対し、佛山部長はこのように答えてくれました。「5軸よりも3軸のマシニングセンタを2台導入してもらった方が作業を分担できて効率的です。また、今ある機械で試行錯誤しながらもみんなの知恵を出し合って工夫していくことにものづくりの醍醐味を感じます。3軸で5軸に負けない加工を目指した方が面白いですし、技術も向上します。職人としての誇りも感じますね」。

「メイド・イン・キリシマ」を世界に

 創業から今年で10年。その高い技術力はマスコミにも紹介され、ますます成長を続けています。関西や関東の企業との取り引きも広がり、従業員数も設立当初の5名から36名まで増えました。「今年8月には10周年記念イベントとして、当社の敷地内で社員が分担して、かき氷や焼き鳥の屋台を出し縁日風パーティーを開催しました。当日は社員やその家族、関係者など約150名に集まっていただき、皆さんにとても喜んでいただきました。また、最後には従業員からサプライズでプレゼントをもらうこともできて、社長として本当に嬉しかったですね」という西重社長。このようなアットホームな社風だからこそ、従業員は安心して働くことができ、ものづくりに打ち込めるのでしょう。それが日本の中小企業の強みの一つとも言えるかもしれません。

 「ここまで成長することができたのは従業員や地元の人々のおかげです。その恩に報いるためにも、常に逃げない気持ちで難しい加工に挑戦し、高品質なメイド・イン・キリシマの製品を世界に発信していきたい。また、技術的にはカーブカット工法をさらに超える新しい加工技術を開発し、さらなる効率化とコスト削減に取り組んでいきたい」と語る西重社長の目は、すでに未来を見据えています。

(上)キリシマ精工株式会社 製造部 統括部長
   佛山正信氏

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(左)三菱マテリアル 加工事業カンパニー 大阪支店 九州営業所 金坂義幸

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PART3: ケー・エム・エス株式会社(埼玉県さいたま市)

ものづくりの現場の常識を打ち破る「図面のない工場」というイノベーション

「日本のものづくりを元気に」する金型製造の新星

 世の中のさまざまな製品を生み出している「金型」。埼玉県さいたま市にあるケー・エム・エス株式会社はこの金型を取りつける土台となるモールドベースを製造・販売している企業です。経験やノウハウの蓄積が重要とされるものづくりの業界において、2002年に創業した若い企業が頭角を現し、躍進を続ける背景には何があるのでしょうか。

 「かつての日本のものづくりを支えてきたのは、職人の技と経験でした。しかし、そこにこだわるあまり、グローバルな競争で負けてしまっては本末転倒です。市場のグローバル化に伴い、お客様からの品質、納期、コストといった基本的なニーズは一層厳しくなってきています。私たちは『日本のものづくりを元気に』を合言葉に、過去の伝統を受け継ぎながらも、スピーディに対応できる生産体制を確立しようと考えたのです」と語るのは、同社の北見雄一社長です。

(左)ケー・エム・エス株式会社 代表取締役
   北見雄一氏
(右)ケー・エム・エス株式会社 常務取締役
   村田智之氏


(右)三菱マテリアル 加工事業カンパニー
   営業本部 流通営業部 堀内鉱平

お客様の満足を優先するため15年前に独立

 

「この業界で仕事を始めたころ、日本の中小企業のトップは創業者が多く、個々のお客様とのつながりを大切にし、なるべく多くのお客様との信頼関係を築くことで事業を拡大していきました。ところが私が以前に勤務していた会社は、お客様のニーズにきちんと対応することに積極的ではなかったのです。それに違和感を持ち、困っているお客様のご要望に応えるには、自分で会社を興すしかないと考えたのが創業のきっかけでした」と、営業畑出身の北見雄一社長は語ります。しかし、自社工場を持たず、生産を外部に委託していた創業時の同社にとって、お客様のさまざまなご要望を満たすにはかなりの労力が必要でした。そんな厳しい状況を一つひとつ乗り越え、2005年にやっとの思いで念願の自社工場の設立を果たします。しかし、事業がようやく軌道に乗り始めてからも苦難は続きます。当時勤めていたベテランの職人たちは、その職人気質ゆえに、自らのものづくりのスタイルに固執することが多く、仕様変更や納期など、市場からの要望に柔軟に応えられないケースが増えてきたのです。それが原因となり競合他社へ注文が流れることも多く、だんだんと会社の存続すら危ぶまれる状態にまで陥っていきます。しかし、このとき、北見社長の生粋の負けず嫌いの性格に火がついたのです。この状況を打破するヒントを探して、海外のものづくりの現場に自ら足を運びました。

 「そこで気づいたのは勘や経験に頼るのではなく、いわゆるデータによるものづくりが日本よりはるかに進んでいて、その生産性の高さに驚かされました。日本との違いがあるとすれば品質だけです。つまり海外で通用する効率的な生産体制を確立し、そこに日本の品質をプラスすれば勝てると確信しました」。


入社2週間で一人前の仕事ができるシステムを求めて

北見社長が辿り着いた結論は、現在のものづくり手法の常識を大きく超える発想でした。

「コンビニやファストフードのように、経験の浅い人間でも一定レベルの安定した加工ができる仕組みをつくれないかと考えたのです。私が技術畑の出身であったならば、やはり自分の経験を大切にしたでしょうから、こんな発想は思い浮かばなかったかもしれません。営業出身であればこその考え方でしょうね」。

 まず手がけたのは、同社独自の加工プログラムの開発と生産体制の確立です。CADシステム開発部の福原雄太郎部長は「弊社独特の生産体制を可能にするシステムとソフトの開発は、気が遠くなるほどの地道な作業の繰り返しでしたが、長年の苦労の甲斐あって製造工程の約80%の手順は、完全にシステム化することができました。これは、競合他社でもそう簡単に真似できないと自負しています」と語ります。驚くべき点は、現場には一切図面がなく、その代わりとなる加工指示書があるのみで、作業者が図面を見ることなくものづくりをしていることです。「図面を見て内容を読み取る力には個人差が出てしまいます。そうではなく誰でも段取りから加工、測定までできるようにしています。加工指示書の記載内容、表現方法については、多くの時間をかけて議論しました」と語るのは村田智之常務取締役です。当初は、図面がないことに不安を感じていた飯塚邦彦工場長も「いまでは図面がある方が古いと感じてしまうくらいです。加工指示書によって、作業のムダや品質のムラは最小限になりました。まだまだ改善の余地はありますが、我々が目指しているのは作業者が誰であっても高品質な製品をスピーディにつくれる工場です」と目標を語ってくれました。

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(左)ケー・エム・エス株式会社 岩槻第二工場 工場長 飯塚邦彦氏(右)ケー・エム・エス株式会社 CAD システム開発 部長 福原雄太郎氏

全体最適化で他社の5倍から10倍のスピードを達成

 同社のものづくりの基本的な考え方として、「特定の工程を部分的にいくら速くしても、全体のスピードUPにはつながりません。大事なのは機械を最初から最後まで、全ての工程を同じペースで動かすこと。機械が止まっている時間を極力短くすればスピードが上がるのは、当然と言えば当然です」と北見社長は語ります。そのため、全ての工程を一つひとつの作業レベルまで分解し、徹底した分業制を取り入れていることも特徴です。一人の作業者が一つの工程に完全に専念することで技術の習得時間が早くなり、ムリ・ムダ・ムラを排除することにもつながりました。現在、同社は競合他社の5倍から10倍の驚異的な生産スピードを実現しており、特に納期面におけるお客様からの信頼は非常に高いものになっています。一方、ユニークなのは、ものづくりの手法だけではありません。社内にモータースポーツのチームをつくり、日々積極的に活動を行っています。レースの日には多くの社員が自分たちの会社のクルマを応援しにサーキットまで足を運びます。このような活動を続けることで、社内に一体感のある雰囲気が生まれ、社員の仕事のモチベーション向上につながっています。北見社長は「日本の社会において、ものづくりをする製造業で働くことが、特に若い人たちにとって魅力的に思われるようになっていくことを期待して、こうした活動を今後も続けていきたい」と語ります。


競合他社には真似できないものづくりの追求は続く

 「弊社において切削工具に期待することはとにかく耐久性です。表面的な工具の価格は二の次です。とにかく機械を止めないことが重要なので、丈夫さが最優先です。工具に不安があると、作業者は加工から目を離すことができなくなり、複数のかけもち作業が同時にできなくなります。そうすると、全体の加工スピードが落ちて、結果的にコストも上がってしまう。その点、三菱マテリアルさんのMVXシリーズは安心感があると現場からも聞いています」と北見社長は話してくれました。同社の優れた生産体制を実現させるという点において、切削工具も重要な役割を果たしています。「各工程の加工時間が精度よく予測できますので、ムダな残業もかなり少なくなりました。切削工具の重要性は非常に高く、三菱マテリアルさんには今後も期待しています」と飯塚工場長。

 最後に「現在のスタイルを確立するまでは、社員が毎晩遅くまで作業して納期を守ろうとしても、なかなか売り上げにはつながらず、みんな苦しい思いをしていました。今までの古い常識を打ち破ることは簡単ではありませんが、日本の企業として、独自の進化とスピード感をもって世界と戦うことが、我々のお客様と社員の幸せにつながると信じています」と北見社長は力強く語ってくれました。2015年には新たな本社ビルも完成し、これからは人材育成にさらに力を入れていくという同社の成長は、ますます勢いを増しそうです。

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