FOCUS on PERFORMANCE

スズキプレシオン

(栃木県鹿沼市)

髪の毛より細い穴をあける国内トップクラスの超精密加工。自動旋盤用高速回転工具も自社開発。

2度の危機が経営力を高めた

 栃木県鹿沼市、大芦川の川沿いにある明るく開けた土地に2棟の建屋が並んでいます。この地に1991年に建てられた工場の出発点は、鈴木拓也社長の祖父・鈴木悦郎氏によって半世紀以上も前に始められた作業所でした。

 ものづくりが何より好きだった創業者の鈴木悦郎氏は、仲間を集めて創業、靴の飾り物などのプレスを始めました。やがて穴あけやネジ切りなどの切削加工業に転じて、1971年に有限会社鈴木精機を設立、金属切削加工業に本格的に取り組みます。

 従業員数を10名ほどに増やし、油圧機の他にいち早くNC旋盤も導入。取締役副社長を務める鈴木勲氏は、当時の様子を「今の会長、私の兄で二代目の社長となった鈴木庸介が珍しいものが好きで、いろいろな機械を入れていました。NC旋盤も最初は彼が操作していました。もっともNCといっても当時はまだ紙テープで動かすタイプで、Y軸もなくX軸とZ軸だけでしたが」と振り返ります。

 メーカーの孫請けのような仕事をこなす中で、当時の鈴木庸介社長は忘れることのできない事件に遭遇します。工場内の床にたまった油などで汚れたままの長靴で得意先に出向いたときのこと、「そんな汚い靴で人の事務所に入ってくるな」とお客様から厳しく叱責されたのです。これを機に3Sの重要性に目覚めた庸介社長は、社内を土足禁止とし、きれいな工場づくりに取り組みます。

 1991年に現在の場所に工場を移転、翌92年にはCIを導入して株式会社スズキプレシオンに組織変更しました。ところが、ちょうどこのタイミングでバブル経済が崩壊して仕事が激減、最初の経営危機を迎えます。

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株式会社スズキプレシオン 取締役副社長 鈴木 勲氏

 「孫請けとして待ちの態勢に甘んじていては良い仕事など取れない」。危機感を抱いた庸介社長は、専属スタッフを雇い入れて営業力の強化に努めました。その後少しずつ顧客層が広がっていきます。同時に人を大事にしたいとの思いのもと、働きやすい環境整備にも力を入れるようになりました。

 業務内容を少しずつ改善する中、紹介で歯科用インプラントの切削加工を手がけるようになり、チタン素材と出会います。それまで扱ったことのないチタンを歯科用の微小サイズに仕上げる、インプラントの切削加工に取り組んだ経験が、後に同社を大きく成長させる一因となりました。

 当時の業績を支えていたのは、月産数万個体制で大量生産するパソコン用のパーツ・ピボットシャフトやアームなど。ところが、タイなど東南アジアを視察した鈴木庸介社長は、実にショッキングな光景を目のあたりにします。現地の工場では、同じようなパーツを24時間体制で製造していたのです。「いずれ、こうしたパーツの生産拠点は、人件費の安いアジアに根こそぎ持っていかれる」。危機感に駆られて経営方針の転換を考え始めた矢先、まさに経営を揺るがすようなアクシデントに見舞われます。2001年、当時の売り上げの約3割を占めていた最大の取引先が倒産したのです。これにより、2度目の経営危機を迎えます。

 鈴木副社長は当時の状況を「仕入先は手のひらを返すように、現金仕入れでないと材料や工具を渡せないと言ってきました。メインバンクもすっ飛んできて、借金返済能力を調べ尽くしていきました。あのときばかりは、もう終わりかと思いました」と語ります。

どんな難題も断らない姿勢が技術力を磨く

株式会社スズキプレシオン 専務執行役員 花輪 潤氏

 大口顧客の倒産を機に、同社は思いきった方向転換を図ります。取り扱い製品を医療機器へと転換し、少品種大量生産から多品種少量生産へと移行、さらに難易度の高い注文を意識して受注するよう改めました。

 「どんな注文も、とにかく受けてこい。受けてから、どうすればできるのかを考えろ。必ずできると信じてプラス思考を徹底せよ。これが庸介社長の指示でした」と語るのは、ちょうどその頃に営業職として入社した花輪潤氏。前向きな姿勢が、技術力向上につながっていきました。あえて難しい注文を受注し、悪戦苦闘しながらも何とか要求をクリアするレベルに仕上げていく。それだけではなく、属人的なノウハウにとどまりがちな技術力を全社で共有できるようデータ化しました。

 また、歯科用インプラントの切削加工を手がけていた経験が、知らぬ間に技術力を大きく高めていました。微小サイズでありながらも、寸法公差が極めて厳しく問われるものづくりに取り組む中で、自然と精密微細加工技術が培われていったのです。その表れの一つがステンレス板に髪の毛より細い0.03mmの穴をあける技術力です。

 「切削加工は条件設定が命です。特にチタン材の歯科用インプラントを削る場合は、いかに良い切削条件を見つけるかが生産効率を大きく左右します。だからといって、ただ単に速く削れば良いという話ではなく、うちでは1個削るのに20分とか30分ぐらいかけるケースも結構多い。切削工具の持ち具合までを計算に入れて、回転送りを調整しながら24時間体制で回して量を稼ぐ。これは難易度の高い案件を手がける中で培われてきた、当社独自のノウハウかもしれません」と鈴木氏は言います。

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(左から)株式会社スズキプレシオン 営業部マーケティング 森田 祐造氏, 株式会社スズキプレシオン 4倍速回転工具アイビー・スピンドル チーフ 宇賀神 一博氏

医療機器製造に活路を見出す

 医療機器への本格的なシフトを進めていた2006年にクライアントから薬事法改正(現在の医薬品医療機器等法)の話を聞きつけると、規制が厳しくなった新法にて医療機器製造業許可を取得。医療機器製造を受注できる体制を整えます。翌2007年には、ISO9001と医療機器の品質保証のための国際標準規格ISO13485をダブル取得しました。「これにより周りの見る目が変わりました」と語るのは、営業部でマーケティングを担当する森田祐造氏。「ISO13485は医療系メーカーにとっては取得が必須となるものの、パーツ製作に携わる企業で取得するところはほとんどなく、強力なセールスポイントとなりました」。

 満を持して2009年に、医療機器の製造・開発に関わる企業のためのアジア最大級の展示会『Medtec Japan』に出展。「当社のような数十人規模で出展している企業は他にありませんでした。けれども医療機器製造業許可を持ち、さらにISO13485も取得しているとあれば、興味を持ってくれる企業も出てきます。そして何社かから引き合いをもらった際に、それまで全く自覚していなかった我々の強みをあらためて知りました」と花輪氏。

 その強みを製造部門の宇賀神一博氏は「正直、こんな楽な図面でいいのかとびっくりしました。今にして思えばという話ですが、歯科用インプラントは、モノが小さいにもかかわらず、ちょっとした挽き目や打痕が許されないばかりか、寸法精度も厳しいため、かなりハイレベルな技術力が求められるのです。これに比べれば生体用のインプラントは、我々にとってはサイズアップとなるため、決して難しいものではありませんでした」と語ります。

 その後2010年にドイツで開催された医療機器展示会に初めて出展、続いて2012年にはアメリカで開催された世界最大の医療機器製造技術・部品部材の展示会『MD & M West』に出展しました。ジェトロが運営するジャパン・パビリオンに単独出展した結果、幸運な出会いに恵まれます。

 「当社の開発顧問の友人がアメリカにいるのですが、その知人が会場に遊びに来てくれました。デモ用に持っていった米粒大のパーツを見た彼は“これはすごい技術力だ。話になるかもしれないから売り込んでみよう”と、その場で動いてくれたのです。しばらくして連れてきた技術者が、世界大手の医療機器メーカーの社員でした。そこからトントン拍子に話がつながって受注に至り、このお客様とは今も安定した取引が続いています」と、花輪氏は海外メーカーとの取引が始まったエピソードを語ります。

 2012年にはもう一つ、同社にとって大きなターニングポイントとなる出来事がありました。CNC自動旋盤用に自社開発した4倍速回転工具『IBスピンドル』が、超モノづくり部品大賞「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞したのです。

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自社製品を開発、OEMサプライヤーに

 IBスピンドルは、自社製品の開発を夢見ていた前社長のアイデアで開発がスタート。当初開発されたのは5万から6万回転ぐらいの高速回転仕様のスピンドルで、マシニングセンタや旋盤などでの使用を想定していました。ところが、これは完全なつくり手発想で、具体的な顧客が見えていなかったために売り先が見つかりませんでした。

 そこで発想を変え、自動旋盤の多くが5000から6000回転しか回らない現状に着目します。仮に周速を上げられるスピンドルを開発できれば、時間あたりの生産効率が高まり、何より自社にとってメリットとなります。これが実現すれば、当然同じ悩みを抱える同業者にもメリットになるはず。発想を変え超精密加工技術を駆使して開発されたのが、高精度・増速のための工具『IBスピンドル』でした。超精密遊星歯車機構を備えて、CNC自動旋盤に装着するだけで4倍速に可変する増速スピンドルです。

 「医療機器の加工の高精度化、高能率化とコスト削減を両立させるために、自社用に開発した増速スピンドルユニットです。実際に使ってみるとミーリング加工の効率が約4倍にまで高まりました。これなら外販しても十分に勝算はあると判断しました」と宇賀神氏は開発から販売までのプロセスを語ります。

 IBスピンドルは、コントロールユニットや接続コードなどは一切不要、既存工具との取り換えはレンチ1本で簡単にできます。既存の回転工具と同じ機械の動力を利用して回転数を4倍に増速しながらも、本体の振れ精度は3μm以内に抑えて、微細穴あけ加工や小径エンドミル加工に対応する優れものです。

 現在はピーターマンタイプの自動旋盤メーカーにオプションパーツとしてOEM供給する他、国内外の金属加工メーカーにも販売しています。2013年から本格的に販売を開始、同年の年間売上本数92本が2017年には約7倍にまで伸び、「今では当社の売上の4分の1ぐらいを担うところまで来ています」(森田氏)。

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業態転換を進め、勝負の場を切削加工の外にも広げる

 同社では今、売上の約半分が医療関連、約4分の1がIBスピンドル、残りが半導体製造装置や自動車関連となっています。今後、力を入れるのが医療関連とIBスピンドル、ただし超精密の切削加工技術はあえて訴求ポイントにはしないとのこと。

 そんな同社が目指す姿を花輪氏は「トータルアドバイザリー企業と考えています。モノをつくる工程で必要な技術は、切削だけではありません。他の要素技術も取り入れながら、開発・設計段階から顧客と一緒に考える、顧客にとってのOne-Stopサプライヤーとなりたいのです。医療用機器なら製造後の検査から洗浄、滅菌を経てパッケージングまでをサポートする。そのためにクラス10000、ISO14644-1規格ではClass7に相当するクリーンルームも用意しました。要は顧客の手間をどれだけ省けるかにフォーカスします。その一方で我々サイドでは、多数個取りや24時間自動操業など徹底して生産効率を高める。そのためには多種多様なアイデアが必要で、どんどんアイデアを出す社風への転換も仕掛けています」と説明します。

 事業の幅を広げるために、田中医科器械製作所社が中心となり結成した、様々な領域のものづくりを得意とする中小企業が結集する「RENGパートナーズ」へ参画。各社が互いの技術を持ち寄り、メイドインジャパンの整形外科用脊椎インプラントシステムの開発に挑戦し、中小企業連携でクラスⅢの医療機器を製品化したことで大きな注目を集めます。KiSCO社が販売するこの「RENGスパイナルシステム」は、特許回避の目途を立ててからの事業化、互いに技術を開示して全体の利益を優先するという申し合わせ、各社の貢献度に応じて利益配分するパートナーシップ協定などの独自の開発過程での取り組みが高く評価され、第6回Medtecイノベーション大賞を受賞しました。

 また、日本で経験を積んで帰国したベトナム人実習生をベトナムでの販売責任者に任命し、タイで開かれる展示会『METALEX』に派遣するなど、IBスピンドルの海外販売も展開。ベトナムをアメリカに次ぐ海外での拠点として整備しています。

 医療関連では、『Medtec Japan 2017』において、新たに開発した腹腔鏡手術用鉗子「MITフォース3mm」を発表しました。これは3mmと細径のシャフトながら、たわみを最小限に抑える剛性を実現するなど、臨床現場で高まる低侵襲ニーズに対応する手術器具となっています。

 鍛え上げてきた超精密切削加工技術をベースとして、医療機器の一貫生産から競争力の強いオリジナル製品の拡販に舵を切ったスズキプレシオンの経営戦略は、切削加工業がこれから目指すべき姿の一つとして、極めて示唆に富んだものと言えそうです。

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