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次世代ロータリー工具への挑戦

次世代ロータリー工具への挑戦

一般的な被削材に比べ、工具寿命が著しく短くなる難削材を多く使用する航空機用部品。難削材加工時に工具寿命を飛躍的に向上させる画期的な加工方法はないのだろうか、という市場の期待に応えるべく、次世代のロータリー工具の開発に挑戦した三菱マテリアル。今回は、複合加工機専用の「駆動型ロータリーバイト」と、一般的なマシニングセンタで使用できる「従動型ロータリーカッター」の二つの新たなロータリー工具の誕生秘話に迫ります。

PROJECT 1 能動的に工具自らを回転させる

複合加工機の利点をうまく活用した駆動型ロータリーバイトの開発

 インサートが加工中に回転する旋削加工用ロータリーバイトを三菱マテリアルが初めて開発したのは約20年前。当時としては斬新な機構を大胆に採用し、切削中に生じる切削抵抗を利用してインサートを従動的に回転させるものでした。インサートが切削中に回転することで、難削材加工時に工具寿命が低下する主な原因の一つである境界損傷を抑制し、大幅な寿命延長を実現しました。このように難削材加工に優れた性能を発揮し、好評を得た初代ロータリーバイトでしたが、複雑な機構であるため工具剛性に限界があり、また多くの部品を組み込んでいることから標準的なバイトに比べるとかなり高価なものでした。一部のお客様には引き続きご使用いただいていますが、時代の流れと共に需要は徐々に減少し、発売当初は標準在庫品であったものの現在では特殊受注品となっています。

 しかし、その水面下では、初代ロータリー工具の開発により蓄積されたノウハウを生かし、新型のロータリーバイトの開発が進められてきました。新たな回転機構を考案するにあたり、大きなヒントになったのが複合加工機の登場です。初代ロータリーバイトでは、切削中に生じる切削抵抗を利用してインサートを従動的に回転させていたため、切削条件によって回転力にバラつきが生じ、常に安定した性能を発揮することが困難でした。もし、どんな切削条件でも所定の回転力を安定的に発生させることができれば、新たなロータリー工具の可能性が生まれるのではないか。約10年前、そんな構想が浮かんでいました。

 ちょうどその頃、東京農工大学 笹原研究室が進めていた、同様のコンセプトを持つ駆動型ロータリーバイトの研究に出会い、約3年前からは、三菱マテリアルと同研究室との本格的な共同研究を開始することとなりました。複合加工機を使用することにより、工具側の回転を任意に制御できるようになったため、従動型ではなく、「駆動型」のロータリーバイトの構想が現実的なものになったのです。

 しかし、工具の回転数と共に工具の接触角も自由に設定できてしまうため、最初に立ちはだかった大きな壁は、最適な切削条件、工具傾斜角の組み合わせを見つけることでした。

 工具側の回転数(工具回転速度)はもちろん、工具を被削材に接触させる角度(工具傾斜角)も重要になります。工具寿命に大きな影響を及ぼす切りくずの厚みや流出方向などは、被削材の切削速度や送り、切込みといった基本的な切削条件によって大きく変化します。今回は、これらに加えて、さらに工具傾斜角が変わるため、最適な切削条件の組み合わせを見極めることがかなり困難でした。そこで、同研究室の力をお借りし、学術理論的にこれらの値を検討し、最適な推奨条件の調査を進めました。

 一方で、工具形状の開発における最大の課題は、インサートをバイトに取り付けた際に、互いの中心のズレをいかに少なくできるか、という点でした。このズレが大きくなってしまうと、バイトの回転軸に対してインサートが偏心して回転します。その結果、切込み量が変動し、部品が所定の寸法に入らなくなります。また、切込み量が変動することで、切削抵抗も不安定になりますので、切削中にビビリなどが生じやすくなり、インサートが突発欠損するなどの恐れもあります。

 インサートの中心とバイト本体の中心をどれだけ合わせられるかという課題に対し、多くの試作と検証を繰り返した結果、最終的にインサートとバイトの同軸度を0.01mm以下に抑えることのできる精巧な機構を実現しました。

 また、もう一つの大きな特長は内部クーラントにあります。今回はインサートの穴とクランプねじのすき間からクーラントを供給するよう設計。このような機構にすると、インサートをバイトに取り付けるクランプ力が低下してしまう傾向がありますが、独自の機構にて必要なクランプ力を確保しています。工具自身が一定の回転数で安定して回転することで、切削中に発生する熱も切れ刃全周にわたって安定して分散されますが、さらにバイトの内部からクーラントを供給することによりインサート全体を効果的に冷却できるほか、切りくずがスムーズに排出できるといったメリットがあります。

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一般的なインサート式バイトと比較して、約10倍の長寿命を実現

今回開発した駆動型ロータリーバイトには、次のような特長があります。

1.インサートの切れ刃全周を満遍なく使用することにより、工具摩耗を均一に分散し、インサート自身の工具寿命を最大まで効率的に使い切ることが可能

2.工具自身の安定的な回転により、切削熱の効果的な分散と、内部クーラントによる冷却により、インサートの摩耗を大幅に抑制することが可能

3.独自の高精度、高剛性のクランプ機構により、安定した高能率の加工が可能

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 これらの特長により、右のグラフの通り、Inconel718の切削において、一般的なインサート式バイトと比較して飛躍的な長寿命化を実現しました。また、耐熱合金などの難削材はもちろんのこと、アルミと鉄などの複合材の切削にも適していると考えています。夜間の無人加工や複数の加工機を少人数で分担するなど、工具交換の頻度を減らし、かつ工具寿命を延長させることで、トータルでのランニングコストを大幅に抑えたいというニーズには特に適しています。

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初代ロータリーバイト開発時の疑問が今回明らかに?

 初代のロータリーバイト開発時、熱伝導率が低い難削材の加工でしばしば問題となるすくい面摩耗を抑制しようとする場合、インサートが回転する速度は、切りくずの流出速度と同じ程度が理想的であると考えていました。すなわち一般的な切りくず圧縮比の理屈からいえば、切削速度の約3分の1が理想です。初代ロータリーバイトは、切削抵抗により受動的に回転させるため、回転速度を制御することはできず、当時、厳密にこの仮説の検証は行われませんでした。

 新型ロータリーバイトでは、設定すべきパラメーターが複数あり、お客様ごとに異なる切削条件において、厳密な最適値を見つけることはとても難しいといえます。多くの実験結果から、汎用的に使用する上での推奨値は徐々に分かってきていますが、その推奨値が、初代ロータリーバイトの際に想定していた、被削材の切削速度に対する工具側の回転速度が約3分の1付近になっていることはとても興味深いことではないでしょうか。駆動型ロータリーバイトは2017年内の発売を目指し、開発を進めています。

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(左)従動型ロータリーカッターの開発を手掛けた航空宇宙部 筑波エアログループ 高木 優次
(右)駆動型ロータリーバイトの開発を手掛けた開発本部 加工技術センター 次世代加工グループ 高橋 亘

PROJECT 2 インサートが切削中に回転する 従動型ロータリーカッター

理論的にインサートの回転力を算出する

 初代ロータリーバイトのノウハウを受け継ぎながら、ミーリング工具として新たに開発されたのが今回の従動型ロータリーカッターです。

 初代ロータリーバイトの発売以来、切削抵抗によりインサートを回転させるという機構を、エンドミルや正面フライスなどのミーリング工具にも何とか応用できないものかと考えていた三菱マテリアル。しかし、ミーリング工具に初代ロータリーバイトの回転機構をそのまま搭載することは、その大きさが最大のネックとなり、当時は現実的に不可能という結論が出ていました。

 しかし、さまざまな産業で被削材の難削材化が進んだ現在、ミーリング加工においても加工能率の向上・工具の長寿命化が一層求められるようになりました。そして、その解決策としてインサートを切削中に回転させることが魅力的な手段の一つだったのです。このような背景から、約10年前から名古屋大学、三菱重工業株式会社、三菱マテリアルの3社による新たなロータリーカッターの共同開発を開始しました。

 開発における最初の課題は、切削抵抗を受けて従動的にインサートを回転させる上で、どのような角度でインサートを配置すれば最適な回転力が確保できるか、という点でした。切削抵抗が低くなるようにインサートを配置すると、発生する回転力が小さくなり、インサートが十分に回転しません。しかし、逆に大きな回転力を確保しようとして、切削抵抗が高くなるようにインサートを配置してしまうと、切削時にビビリなどが生じ、場合によってはインサート、もしくは工具本体が破損してしまいます。つまり、なるべく広い切削条件において、安定してインサートを回転させることのできる切削抵抗を発生させることが重要であり、そのためのインサート配置角度を導き出す必要があったのです。

 この難題を解決したのが名古屋大学でした。同大学では複雑な計算式を確立し、数値解析によりインサートの回転に最適な配置角度を理論的に算出することに成功。初代ロータリーバイト開発時は経験則と多くの実験結果によりインサートの配置角度を決定していましたが、今回はそれを理論的に算出できたことで開発期間が大幅に短縮されました。

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当社従来工具に対し、8~10倍の長寿命を実現

 次なる課題は、ミーリング工具の形状面における特有の課題ともいえる、非常に狭いスペースへのインサートの配置でした。この狭いスペースに搭載できる、なるべく小さな回転機構を考案しなければなりません。そのためには、切削中にインサートをスムーズに回転させるべく、インサートの穴とクランプねじとのクリアランスを最適にする必要があります。小さすぎると引っかかりが生じてしまい、大きすぎるとガタつきが発生します。また、工具剛性という観点からは、インサートの大きさに対するクランプねじの太さも重要になってきます。この課題に対しては、検討・解析・試作・実験を何度も繰り返し、最終的にはクランプねじの上部にばねを組み込むことなどを行い、最適なクリアランスと強度を両立する回転機構を考案しました。回転機構のシンプル化・小型化の実現により、ロータリーカッターの完成に目途が立ち始めた矢先、新たな課題が発生します。それが、インサートの底面と工具本体に取り付けられている超硬シートが回転接触することによる偏摩耗の発生です。インサートが回転することで、切れ刃の損傷は均一化できますが、切削抵抗を受けとめる超硬シートは均一に荷重されることがなく、主に切れ刃直下部分に集中して負荷がかかります。インサート、超硬シートのどちらも超硬でつくられていますので、局所的に負荷がかかった状態でそれぞれが接触して回転し続ければ、その部分が偏摩耗することが避けられません。この問題を解決するため、インサートと超硬シートの間に、金属でできた可動シートを緩衝材として組み込むことになりました。

 このようにさまざまな課題を一つひとつ着実に解決していくことで、切削抵抗を利用してインサートを回転させる新型のロータリーカッターがついに完成しました。ロータリー工具の最大のメリットは、コーナーチェンジが不要となる長時間の(無人)切削ですが、実際に下記グラフの通り、耐熱合金の加工において、当社従来カッターの1コーナーに対し、8~10倍の長寿命を実現しています。

 この従動型ロータリーカッターは、2017年内の発売を予定していますが、今後は、エンドミルタイプ、正面フライスタイプをはじめとして、さらにはターニング加工用のバイトタイプなどへの展開も予定されています。また、インサートサイズを展開することで、ランピング加工への対応なども検討しており、従動型ロータリーカッターとしても、さらなる進化を図っていきます。

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