CUTTING EDGE

低周波振動により切りくずを分断する

協力:シチズンマシナリー株式会社

切りくず処理を根本から変える

 小型自動旋盤で加工される自動車、医療機器、OA機器などの精密小物部品加工の課題の一つが切りくず処理です。切りくず処理がうまくいかず絡み合ってしまうと、工具寿命への影響はもちろん、加工した製品の表面に傷を付けたり、機械の停止を引き起こすことさえあります。つまり、工具の長寿命化、品質安定化、機械稼働率向上のために、この切りくず処理を確実に行うことが切削加工の永遠のテーマとも言えるのです。その対応策として、チップブレーカ付きインサートの適用、高圧クーラントの使用(高圧クーラントを加工点に直接当てることで切りくずを切断)などの方法がとられています。この“ 切りくず問題”解決のために、従来と全く異なる視点からのアプローチとして工作機械メーカーのシチズンマシナリー(株)が着目したのが「低周波振動切削技術」です。2013年秋にこの技術を搭載したマシンを発表し、国内外から大きな注目を集めました。今回、シチズンマシナリー(株)開発本部の中谷尊一氏、三宮一彦氏を当社営業本部 大分義光と開発本部 佐藤 晃が訪問し、「低周波振動切削技術とその将来」についてお話を伺いました。

低周波振動切削『LFV』とは?

 シチズンマシナリー(株)独自の制御技術によりサーボ軸を切削方向に振動挙動させ、その振動が主軸回転と同期しながら切削します。さらに、切削中に“空振り”時間を設けることにより、切りくずを細かく断続的に排出させる特徴を持っています。これにより、難削材の加工や深穴加工においても、切りくず絡みによる問題を一挙に解決することが可能となりました。低周波振動切削は、多彩な加工形状と幅広い被削材質に対応し、汎用性に優れた最新の切削技術です。

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※低周波振動切削(Low Frequency Vibration-cutting)『LFV』は、シチズンホールディングス株式会社の登録商標です。
※『個の量産』は、シチズンホールディングス株式会社の登録商標です。

空振りすることで確実に切りくずを切断

三菱マテリアル 大分  切りくず問題は我々切削工具メーカーにとっても課題の一つですが、この技術に着目したシチズンさんの機械づくりの経緯に興味があります。

シチズンマシナリー 中谷氏  きっかけは、長いお付き合いのユーザー様から提案をいただいたことです。加工現場での切りくずに対する問題点と苦労は我々も認識していましたから、この低周波振動切削技術が解決につながるだろう、という判断をして、一緒に共同開発しましょうと決意したのです。

三菱マテリアル 佐藤  常識ですと工作機械は振動させてはいけないものですよね。

中谷氏  確かに工作機械の常識はいかに機械を振動させないかが大切です。提案されたときに真っ先に思い浮かんだのは、精度が出せるのかということと、振動に機械が耐えられるかという不安でした。しかし、その一方で、技術そのものの将来性は非常に高いと感じ、この技術開発に取り組むことに躊躇はなかったです。

佐藤  製造現場での自動化を制限する大きな問題は切りくず処理なのです。トラブルの多い原因に切りくずが絡まって工具が欠けるということが挙げられます。加工面粗さが悪い、工具寿命が短くなるなど、切りくず問題は悩ましい。

大分  自動盤での量産部品加工は稼働率が生産性(コスト)の鍵になりますが、切りくずが巻いてくると切りくずの流れも変化するので、挽き目も悪くなる上、最悪の場合機械がストップしてしまう。安定した切りくずが排出されるということは、挽き目もきれいになるし、加工のトラブルが減少し、トータルの生産性もアップするわけですから、我々も期待しています。

中谷氏  当社が開発した『LFV』を用いた切削では、切削時の空振り時間が、切りくずを細かく分断して排出するとともに、刃先の温度上昇を防ぎ、工具寿命の延長にもつながる可能性があると考えています。

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オイルホールドリルによる深穴ドリル加工。分断された切りくずがドリルの溝を通って排出されるため、切りくず絡みの心配がありません。

『LFV』による切りくず
従来の切削による切りくず

難削材が「難削」材と呼ばれなくなる時代へ

― 2014年にこの『LFV』を搭載した2軸旋盤『VC03』を発売しました。開発で苦労した点はどんなところでしょうか。

中谷氏  『VC03』の主な特長は下図の通りですが、開発段階では、そもそも機械は振動させてはいけないもの、というのが基本的概念ですから、それを無理やり振動させることに悩ましさがありました。『LFV』の振動周波数が、機械の固有振動数と合ってしまうと、機械全体が共振してしまってそれこそ加工ができなくなる。このあたりは注意しながら開発を進めました。『LFV』の有用な機能は、「切りくずの確実な切断が可能になる」ことに加え、加工条件次第では「切削抵抗が減少する」「切削点の加工温度が上昇しにくい」「工具寿命が延びる」といったことが期待できるなど、まさに“生産革新ソリューション”になると考えています。

シチズンマシナリー 三宮氏  我々があれこれ考え抜いて、手を尽くした技術が、加工で困っていたお客様を解決に導くことができたとなると、達成感がありますね。製品発表以来、『LFV』の技術を喜んでもらえ、高い評価をいただいているのは嬉しいことですね。


『VC03』高精度のための機械構造

ヒートシンメトリック構造のフレームとベッドをはじめ、ウイングタイプヘッドストック、別置式のクーラントタンクは、経時熱変位や加工熱を機械本体に伝えないための基本コンセプトです。また、強制冷却機能付ビルトインモーターは、ベルトレスで振動が少なく、スムーズな回転が得られ、抜群の形状精度を発揮します。サービスタイム3.5秒の高速ガントリーローダーやIN/OUTストッカー等の周辺装置を組み合わせることによりさまざまな自動化ニーズに対応します。
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低周波振動切削機『VC03』

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(左から)シチズンマシナリー株式会社 開発本部開発企画部副部長 中谷 尊一氏
     シチズンマシナリー株式会社 開発本部ソリューション開発課課長 三宮 一彦氏
     三菱マテリアル株式会社 加工事業カンパニー 営業本部 部長補佐 大分 義光
     三菱マテリアル株式会社 加工事業カンパニー 開発本部 ドリル・超高圧開発センター 佐藤 晃

― 将来的に製造現場はどう変化するとお考えでしょうか。

中谷氏  シチズンマシナリーは、2013年から事業コンセプトとして『個の量産』を提唱しています。これは大量生産にも、一つ一つ違う部品が加工される多品種少量生産にも同じ効率で対応・両立させ、どのような生産においても高生産性を実現しようとするものです。さまざまな形状や素材のワークが次々と流れてくるようになるわけですから、切りくず絡みをプログラムで都度調整しているわけにはいかなくなります。あらゆる材料、あらゆる加工に対応できる『LFV』のような、新たな加工技術が確実に必要になってくると考えています。

三宮氏  もっと視野を広げると、現在、難削材と呼ばれているものも難削材じゃなくなる・・・というようなところまでもっていきたいと思っています。難削材でも切りくずが絡まず、細かくなっているので、取り扱いも楽になりますし、切りくずの容積も、条件により1/3から1/5に減ります。切りくず容積が減るということは、リサイクル業者のトラック引き取り回数も減るということなので環境にも優しいですよ。

中谷氏  『LFV』は、今後加工技術の考え方を大きく変える可能性があると信じています。『LFV』を前提とした考え方に変えることによって、工具の形状も変わるし、工具レイアウトも変わってくる。切りくずが絡まない、という前提になった瞬間に、加工を取り巻くさまざまな設計の自由度が増します。あらゆる可能性が将来的に広がると思っています。いろんな研究テーマが生まれていくでしょうし、工具メーカーさんとしても相当研究が必要となってくるのではないでしょうか。

大分  工具の形状だったり、ホルダーの配置だったり、この技術にどのような工具が合致するのか、共に考えると面白いですね。ひょっとしたら加工現場の根底を変えられるかもしれない。

中谷氏  大型機の加工例として、長くつながった切りくずを取りながら加工しなければならないということもあるようです。そのため にドアをあけた状態で切りくずを引っ張り出しながら加工するなど、安全面で問題がある。高額な被削材を切りくず絡みによる傷などで無駄にはできないことから、そうした作業を行わざるをえないのだと思いますが、怪我をしてしまうリスクのある危険な行為です。『LFV』技術を使えば、切りくずの問題が発生しないので、自動でも安心して機械が動かせるようになるはずです。VC03で販売を開始したこの『LFV』は、当社の他機種へも適用できるよう今後開発を進めていきますので、適用できるワーク範囲も広がっていくと考えています。

佐藤  我々も、お客様の立場に立って、工具開発に注力していますから、世界中の加工現場に革新をもたらす加工方法を提供できればと考えています。

大分  当社としても現在、先端技術開発チームを立ち上げたので、ぜひとも活用していただければ嬉しいです。若手もどんどん挑戦して工具を開発しています。

佐藤  今回の『LFV』により機械側で確実な切りくず排出が可能になれば、工具に本来持たせたい能力を付与した新しい工具や、『LFV』に特化した工具など、全く新しい製品が生まれる可能性を感じることができました。こうした新しい技術や工作機械の進化も視野に入れて、今後も加工現場の皆様のお役に立てる工具開発に注力していきたいと思います。

※低周波振動切削(Low Frequency Vibration-cutting)『LFV』は、シチズンホールディングス株式会社の登録商標です。
※『個の量産』は、シチズンホールディングス株式会社の登録商標です。
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