CRAFTSMAN STORY

難削材旋削加工用インサート「MP/MT90」シリーズ

超耐熱合金における切れ刃境界部欠損を徹底的に抑える

成長産業においてますます需要の高まる難削材加工。特殊な用途や条件の多い難削材加工において、いかに幅広く対応できる最適な標準品を提供できるか。この問いに正面からぶつかり続けた4人の開発スタッフに、難削材旋削加工用インサートの開発プロジェクトの裏側を聞いた。

― 開発に至った背景とは。
菅谷:
航空機産業や自動車産業、医療産業をはじめ、難削材の用いられる市場はますます成長しています。そういったニーズに応えるため、難削材加工をテーマにした製品開発プロジェクトが始まりました。しかし、難削材加工といっても加工材料や加工部品の種類は多岐にわたり、そこで求められる工具性能も大きく異なるもの。その中で、できるだけ多様な条件に応えられる標準品をつくりたい。その過程で、まず何をメインターゲットにするのかを、お客様を多く知る営業部や材料開発部も含め、たくさんの議論を重ねました。その結果、今回のメインターゲットを航空機産業に選定し、超耐熱合金加工、チタン合金加工に最適化したインサートの開発に着手しました。


― 実際の開発における苦労とは。
菅谷:
超耐熱合金やチタン合金などの難削材を加工する際の切れ刃損傷メカニズムは、「鋳鉄・鋼」といった一般的な金属材料を削る場合と大きく異なります。今回の最大のテーマは、切れ刃境界部欠損をいかに抑えて長寿命を実現するかでした。
菅原:
まずは、従来製品を徹底的に分析。難削材加工時の損傷は、ちょっとした条件のばらつきで優劣が変化するため、性能評価の見極めが非常に難しいものです。そのため、一つの実験でもできるだけ母数を増やしながら、普段より多くの評価項目を用いて分析を行っていきました。こうした分析の中で切れ刃境界部欠損を抑制する最も効果的な要素として着目したのが、すくい角と刃先ホーニングの大きさでした。
菅谷:
すくい角を大きく、刃先ホーニングを小さくした試作品では、加工初期では狙い通り境界部欠損を抑制できていても、工具寿命が短い結果となりました。切削初期の工具損傷から工具寿命を精度よく予測することができればよいのですが、超耐熱合金切削においてそれは難しかったのです。長寿命を実現するためには、加工終期まで境界部欠損を抑制し続けることが必要でした。さらに、さまざまな加工条件で安定した性能を発揮できることが必要です。多くの実験を重ねベストな刃形を模索していきました。
一ノ関:
実験はとにかくトライ&エラーの連続でした。すくい角の大きさと刃先ホーニングの大きさを細かく検討して開発を進めたため、試作、形状測定、切削評価、分析に費やした労力は、これまでの開発と比べても、格段に多かったです。試作品がひとたび完成すれば、3日間ずっと精密測定室にこもって測定し続けたこともありました。開発の効率化のためにもちろんコンピュータに頼ることがほとんどですが、やっぱり最後は地道な作業を繰り返す、開発者の執念が決め手ですね(笑)。それぞれのすくい角に合ったベストな刃先ホーニングの大きさを設定できたと思います。
菅谷:
こうした試行錯誤の結果、市場ニーズに合わせた3種類のブレーカを設計し、シリーズとして2013年に発売しました。すくい角20度で切りくず処理に優れるLSブレーカ、すくい角15度で特に境界部欠損に強いMSブレーカ、すくい角10度で欠損に強いRSブレーカと、加工のシーンに合わせた選択が可能です。発売後も切れ味のよさについて高評価をいただいています。また、超耐熱合金だけではなく幅広い用途でも使用され、汎用性の高さにも評価をいただけたことにも苦労したかいがあったと実感します。
益野:
材種開発に関しても、従来の(Al,Ti)Nと比べて飛躍的にAl含有量をアップさせた硬度向上および高硬度相安定化が図られ、耐摩耗性、耐溶着性を大幅に改善。従来品より25%以上の性能向上を実現しました。最適な切れ刃形状との組み合わせにより、難削材用インサートとしての性能をより一層高められたと考えています。


― 開発において心がけたこととは。
一ノ関:
見た目のデザインにも開発者のこだわりを込めました。切りくずを流すための機能性を追求しながら、航空機の翼のモチーフをあしらいました。見た目から高い性能を印象付けるとともに、この製品が超耐熱合金用のインサートであることを主張させたかったのです。
菅原:
本製品は旋削用ISOインサートシリーズとして、多彩な幅広い形状ラインナップを取り揃えました。プロトタイプの基本性能を維持しながら、さまざまな内接円や頂角、コーナRサイズへ形状を幅広く展開していくのですが、ここで時間がかかってしまうと、せっかく基礎形状ができあがっているのに製品の販売開始が遅くなってしまう。そのため、従来の1/3で設計できるような仕組みをつくり、少しでも早くお客様にお届けできるよう心がけました。
菅谷:
あとはやはり、若手、中堅、ベテランの私たち4人がそれぞれの得意分野を活かし合い、チームでノウハウを共有し、支え合えたことが開発の最大のポイントだと思います。特に一ノ関さんがベテランの知恵を詰め込んでつくってくれた「設計の手引き」は、大変勉強になりました。若手設計者に読んでもらいたいものです。今後も、先輩方の培ってきた技術を吸収し、継承していきたいと思います。
一ノ関:
もちろん、いつも明るく、愛すべきキャラクターである若いチームリーダーのおかげで、気持ちよく仕事をできたのも大きなポイントだったと思います(笑)。


― お客様に向けてメッセージをお願いします。
一ノ関:
現在はネガのインサートのみの販売となっていますが、これからはポジのインサートへの拡充を考えています。この製品を市場に出したおかげで、小物部品の加工にも使えそうだということに気がつきました。今後はより小さいサイズのインサートへの展開を進めていきたいと思います。
菅谷:
製品名は難削材用となっていますが、ステンレスや一部の鋼などでの使用にもご好評いただいておりますので、その汎用性をぜひ一度お試しいただければと思います。今後は、幅広い形状に拡充することで、さらに対応力を強化し、より広い業種におけるソリューション提案を目指します。
菅原:
さらにさまざまな効率化を図る新しい取り組みを取り入れました。今回培ったノウハウは今後の開発にも役立て、お客様のもとに製品を早くお届けできたことをうれしく思います。
益野:
新材料・新技術を開発し、さらに高品質かつ高性能な商品を提供していきたいと思います。

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難削材旋削加工用インサート MP/MT90シリーズ

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